薄着の夜着のまま、欄干に寄りかかる。 山の上にある城からは、己の築きあげた箱庭が見下ろせる。 もう日が落ちた今の時間では、暗くてよく見えないが、それでも人々の営みがその中にあると宵闇も不思議と暖かく思えるから不思議だ。 「夜に来るよりも、昼の間の方が今の倍、良い眺めが見えるぞ」 がそっと闇に声をかけると、音も無く傍に黒ずくめの男が立っていた。 居るのは知っていたが、姿を現すとは思っておらず、少し驚いたがそれは表情には出さずに語りかける。 「ふふ、何処の者か知らぬが我はこの箱庭さえ守れればそれで良い。そなたの主の害にはならぬよ」 元々武術はできるが、手誰であろうこの忍と今遣り合っても、刺し違えるどころかあっさりの方が負けるだろう。 武器は部屋の中だし、ここ最近寝ずの政務を行っているせいで、今は何か考えるのも億劫なぐらいなのだ。 相手に戦意は感じられないし、だから余計なことはしない方が面倒は少ない。 そう考え、はそのままの状態で暫し忍を眺めやった。 「……」 返事が返ってこないのは、話す必要も無いということか、こちらの様子を伺っているからか。 沈黙を苦としないにしてみれば、何も無いならそれで良い。 ただ、ずっと傍に立っていられるのもなんだか間が悪いので、すっと傍の床を指し示す。 「座ったらどうだ? 茶は出ぬが暫しの休憩にはなろう……」 そういうと、忍はあっさりとその場に座った。忍ならばもっと警戒しそうなものだが、それも感じられない。 つくづく面白い男だと笑うと、表情こそ見えぬものの不思議そうに首が僅かに傾ぐ。 「ふふ、対した事ではない。敵とも知れぬのに、我もそなたも良くこうして話していられるものだと思うてな」 「……」 相変わらず返事は返ってこないが、は別に構わない。 そのうち、沈黙が心地よく一気眠気が襲ってくる。 体も頭もだるくなっていることを思い出す。 そろそろ褥に戻ろうかと考えた時、すっと目の前の忍が動いた。 ぼんやりと黙って見ていると、忍はの体を大切そうに持ち上げて部屋の中に 「……」 無言ではあるが、ゆっくりと優しく褥に下ろされた。 寝首を掻かれてもおかしくないこの状況で、敵の主を律儀に褥に運ぶ忍に、 は小さく笑った。 「済まないな。来られるなら……今度は昼に来るとよい。この礼に、我が箱庭を案内しよう」 意識が遠のく直前、忍が小さく頷いた気がした。 ー幕ー |