凄まじいほどの血臭を帯び、魔王が帰還したのをは他の部下と共に出迎え た。 酷い戦だったと聞いた。 敵の軍はどこのだか忘れたが、生きているものはおらず、大地が血に濡れてまさに地獄絵図だったとか。 些か誇張が過ぎているのだろうが、それでもこれだけの血臭がするのだから、相当なものだったのだろう。 濃姫と蘭丸も疲れているのだろうから、全て引き受けるという意味で頷いてみせると、二人は信長に一礼して先に城に入ってゆく。 手伝いをするはずの下人がその姿に体を強張らせている中、は一人何食わぬ顔で近寄って一礼した。 「お前だけは我を恐れぬな」 「俺だけではない。奥方も蘭丸も恐れぬだろうに」 立っているだけで役に立たない者を手で追い払い、は重い鎧を外す手伝いをしながらくすくすと笑った。 「俺は魔王よりも恐ろしいモノを知っているからな」 言えば主は僅かに怪訝そうな顔をした。 普段からあまり表情に変化がない人だけに、僅かな変化が楽しい。 「言うてみよ」 「人さ。物の怪だろうが魔王だろうが、所詮は全て人が生み出したもの……人以上に恐ろしいものなどない」 はて、どんな反応が返ってくる物かと思えば、主は豪快に笑った。 「お気に召しましたでしょうか魔王様?」 「なかなか気に入った。だからお前は飽きぬ」 全ての鎧を外し終え、後の処理を他の者に任せては主を城へ誘う。 「今宵は折角の満月。夕餉の後に祝い酒でも飲もうか?」 戦場ではゆっくりとした時間はなかっただろうし、濃姫や蘭丸は酒は飲まないので自分が相手を申し出れば、珍しく機嫌の良さそうな返事が返ってきた。 空には血を含んだような紅い月が浮かんでいた。 ー幕ー |