抱き枕

「親ー。入るぞ……」

 相手の返事がないのに入るのは日常茶飯事で、そのまま開けると元親は机に突っ伏して眠っていた。

 書簡などの上に寝ているので、皺が寄ると困る物を起こさぬように引き抜く。

 昨日はまた巨大なからくり兵器の改良のために、遅くまで起きていたらしいので、余程眠かったのだろう。

「からくりも良いんだけど、本業の方ほもう少し頑張ってくれればなぁ」

 そこは自分が助けているものの、人間は誰しも興味があることの能率の方が良いに決まっている。

 元親はからくりだとか船だとか、南蛮から入って来たものを作ったりするのは得意であり、趣味であるが地味な机に向かう作業が苦手で、時間の割には全く進まない。

 子供っぽい所が多いが、そんな所が元親らしいと言えばらしい。新しいからくりの図案を考えては、一番にの元へ持って来て嬉しそうにあれやこれやを語る姿を見ると、つい咎める事を忘れてしまう。

 そこが甘いと言われる所以なのだが、子供の悪戯を許してしまう親の気持ちが少し解る気がした。

 仕方ないとそっと上着をかけようとした時、ぐっと腕を引っ張られる。

 寝ていたはずの元親の腕に抱きとめられ、は苦笑した。

「起きていたらさっさと仕事すればいいだろ」

が来たのは解ってたけどよ、なんか気持ち良くて起きたくなかったんだよ」

 きゅっと子供が母親にするように抱きつかれ、ぽすぽすと頭を叩いてやれば眠たげに瞼が閉じられる。

「俺は抱き枕か」

 悪態をついて見るものの、既に元親は夢の世界へ旅立っているらしい。

 銀の髪を梳きながら、そっと額に口付けを落す。

「おやすみ……」

ー幕ー

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