きらきらと降り注ぐ太陽の光や庭に咲き誇る花や木々から視線を逸らし、は障子を後ろ手に閉めながらそのまま座り込んだ。 眩い光を放つ草花の強い生命力を目の当たりにして、見なければ良かったと思ったが現実から視線を逸らす事も出来ずにいた。 羅刹となったこの身体には辛く、障子を開けてから少ししか経っていないのにもう身体は悲鳴をあげている。 仕方なかったとはいえ変若水を飲むと決めたのは自分で、土方や原田は痛々しい表情をしていたがの意思を尊重してくれた。 そのまま畳に頬を擦りつけるように横になると少し楽で、暫くそうしていると廊下側の障子が少しの音を立てて開きすぐに閉じた。 「、身体、辛いのか」 くしゃりと髪が音を立てたのと同時に温かさを頭に感じて視線をあげると、原田の穏やかな瞳に心配の色が見えて申し訳なく思う。 きっと優しい彼の事だから気にやんでいるだろうと思ったが、上手い言葉が見つからずただ頷くしか出来ないに原田は静かにそうかと呟いた。 「悪かったな、守ってやれなくて」 同じ台詞を土方にも言われたが自分の身は自分で守れなければ生きて行けないこの世の中、薩摩や長州のとの戦いの最中に鬼が来てしまっては仕方ない。 「俺が弱かったせいだから。左之さんや土方さんのせいじゃない」 土方や斉藤らと一緒に任務に出掛けたは鬼の奇襲受けた際、土方の命で屯所に応援要請を伝えに行くよう言われて引き返すところだった。 平隊士であるが斉藤や沖田とも剣を交えてもひけをとらないのが自慢だったが、あくまでも稽古場での話であり一人のところに大勢で来られては見るより明らかな結果だった。 待ち構えていたように現れた長州の志士達に巻き込まれ応戦ながら逃げたが、結局一人では何の力もなく背中を切られ重傷を負い、鬼を退け駆けつけた土方達により屯所に運ばれた。 「ばぁか、自分ばっかり責めるんじゃねぇよ」 そう言うと原田はの頭を少し持ち上げて、己の片膝の上に優しく乗せてゆっくりと頭を撫でた。 優しく降る言葉を一つも聞き逃さないようにと、静かに瞳を閉じて聞き入っていたは胸が痛んだが余計な心配はこれ以上増やしたくはないと自分の胸に誓った。 羅刹となってしまったがこのまま血に飢えることなく自我を保てるなら、普通の隊士とは違い夜に活動すればどうにか新撰組にとってマイナスにはならないはず。 血に迷うときが来たらそのときは自分で幕を下ろそう、そう心に誓った。 「俺はこれからも新撰組のために剣を振る。それしか今の俺には出来る事がないから」 「決めたこと……なんだろ?俺には反対する権利はねぇよ、ただ、これだけは覚えておけ。 土方さんや平助も皆お前の身を案じてる。この俺もだ。羅刹だからと自分の身を軽く見るなら、もしこの世がお前にとって辛くなるなら、その時は俺がお前を殺してやる」 まさかいつも優しい原田の口から殺すという言葉が出てくるとは思わずに、驚いて目を開けると原田の瞳は先ほどと変わらない静かな色をしていて空耳かと疑うほどだった。 沖田からなら何かある度に殺すや斬るという言葉を口にしている気がするが、まさか原田からしかも恋人である自分に向けてそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。 でも愛しい人の手で殺されるなら、最後に見れるのが見ず知らずの他人ではなく原田ならばこんなに嬉しい事はないかもしれない。 「左之さんになら俺はいいよ。でもそれまでは一緒にいたい」 「ばか」 少し泣きそうな笑みを浮かべている原田を見て、安心させるつもりだったのに失敗したなと思った。 あとどれだけこんなにゆっくりした時間が流れるのか、もしかしたら明日には薩摩や長州と戦になるかもしれないこの時、傍にいれることを嬉しく思う。 手を原田の顔に向けて伸ばせばしっかりと握られて、端正な原田の顔がゆっくりと降りてくるのをしっかりと見つめていた。 「口付けの時くらいは目を閉じるもんだろうが」 「勿体ないだろ、綺麗な顔見ないのは」 優しい口付けは原田そのもののような気がして、は少し悲しくて涙が出そうになったがきつく目を瞑り誤魔化した。 これから先どんな事があっても、きっと原田の手を離す事は出来ないと思う。 「……離れていても心はお前に渡しちまってるから、それだけは忘れるな」 「ん」 はゆっくりと起き上がると愛しい原田に両手を伸ばして抱きしめた。 もう暫くはこのままぬくもりに身を任せていたい、そう思いながら静かに瞳を閉じた。 ー幕ー |