いつものように食べ終わった朝食の膳を片付けていると、台所の流しに青年が一人立って食器を洗っているのがわかった。 確か今日の朝食の当番は僕、沖田総司と一くんでだったはずだが、誰だと思いながら近づくと知らずうちに笑みが浮かんだ。 といい、三番組隊士であり今は僕の恋人という位置にいる。 後ろからそっと近づいて耳元に顔を寄せて細い腰に手を回せば、驚いたように身体がびくりと大きく跳ねた。 「おはよう、 くん」 「っ、挨拶なら普通に言えば聞こえます。何もくっつかなくても」 「おはようは?」 「……おはようございます」 こちらを見る瞳は動揺と恥ずかしさで揺れていて、僕は笑顔を浮かべてから離れた。 嫌がられてはいない事に内心安堵したが、こうして時々くっつくのは幾つか理由があって僕も遊んでいる訳じゃない。 一つは他の隊士への牽制を込めて僕のだということを知らしめる為、もう一つは僕自身を欲しているし返ってくる反応が楽しいから。 入隊した時から綺麗な子だとは思っていたけど、時々視線を感じて途中から見られているのだと気がついた。 一くんにさりげなく聞いてもらったら、照れながら僕が憧れなんだと言われたそうだ。 どうして僕の隊じゃないんだろうと思ったけど、一くんになら任せてもいいかもしれない。 苛つくけど。 気付けばそのころからの事が好きだったんだと思う。 「総司?」 物思いに耽っている僕を心配そうな顔を見せるがいて、名前で呼ぶのは珍しいなと関係ない事を思った。 いつもは皆の前では沖田さんと他人行儀な呼び方も、二人きりの時は名前で呼ばないと襲うよと冗談で言ったらすぐに名前呼びになってしまった。 面白くないなぁ、と思ったのは内緒だ。 「、この後少し時間ある?」 「あるけど」 なんとなく二人でいたくて僕の部屋へ呼べば、個室を持っていないは少し辺りを見渡した。 皆で雑魚寝なんて嫌だから幹部で良かったとしみじみ思うが、が他の人間と一緒に寝るのを想像したら嫌な気持ちになった。 「? 何かあった?」 「総司の匂いがする」 何気なく発したであろうその言葉が、僕の胸をざわつかせての手を握り床に押し倒した。 上から見下ろせば赤く染まった顔が僕を見上げていて、逸らされる事のないまっすぐな瞳に一人笑みを浮かべた。 きっとが他の人間を好きになったとしても、僕はこの手を離してやる事は出来ない。 「もし君が僕じゃない人を好きになっても、僕は君を奪い返すよ。例え君が望んでいなくても、ね」 「俺は沖田総司以外見えないし、見ないと思うけど」 細い綺麗なの手が僕の頬に触れて愛しそうに撫でるから、ゆっくり顔を近づけて口付けをしようとした時だった。 「総司、てめえ何巡察サボってんだ!」 勢い良く開いた障子の向こうには青筋を立てた土方さんがいて、は我に返ったその瞬間勢い良く僕を突飛ばして顔を赤くしていた。 いいところだったのに、どうして土方さんはこうも間が悪いんだろうと思ったが、どうも気になる事を言ってたような気がする。 そう言えば午前は巡察だったかな……組の皆になんて言い訳しようかと思っていると、土方さんが思いっきり僕を睨んでいてまた少し嫌いになった。 でも怒っていたはずの土方さんはを見るなり頬を染めて、僕の頭を思いきり叩き手首を掴んで連れ出した。 どうして僕の邪魔をするのが得意なんだろうと思いながら、に手を降りながら僕は土方さんに連れられるまま廊下を歩いていた。 「あの土方さん? 痛いんですけど」 「てめえ、仕事ほっぽって何やってんだよ」 「何って押し倒して口付けしようとしただけですけど?」 悪びれもせず口を開けば土方さんは頭を抱えて唸るから、僕は面白くてお腹を抱えて声を上げて笑ってしまい中々抑える事が出来ない。 そう言えば新撰組は色恋沙汰は禁止だったかと思いを巡らせていると、後ろからぱたぱたと足音が聞こえる。 「総司っ」 「ん?」 聞きなれた優しい声がすると思って振り向けば、唇には優しい感触があって目の前には長い睫毛があった。 口付けられたとわかったのは暫く経った後で、嬉しくて笑みを浮かべての手を掴んで廊下を走り出した。 後ろから土方さんが何か言っていたけれど、僕にはもう聞こえない。 ただ君さえいてくれれば僕は何だって出来るから。 後で一緒に怒られよう、それまでもう少し二人で。 ー幕ー |