少し暖かい太陽の光が縁側に降り注ぎ、薫はその眩しさに目を細めて庭を見つめた。 最近千鶴と新撰組の目に付くように計画を実行に移してきたが、あまり表立ってしまっては意味がなくなってしまう。 今日は用事もなく暫くこうしていようと思った矢先、後ろから暖かい腕の中に閉じ込められて身動きが出来なくなった。 後ろを見なくてもこの家にいるのはもう一人だけだとわかっているが、見上げて睨み付けるとは少し笑っただけで腕を緩める気配はなかった。 薫は観念したように笑みを溢した。 「馬鹿だな。そんなに抱きしめなくても逃げ出したりなどしないのに」 「あれ、この間千鶴と話した後俺を置いて行ったのは誰だっけ」 2、3日前に薫は大通りで千鶴に表札の件で声をかけられたが、沖田が追いかけて来た為にやむなく引き上げた。 その時少し離れた場所で見守っていたを置き去りにして、足早にその場を後にしてしまった。 同じ顔が二つ並んだ事を嬉しく思いながら見ていたら、一人の男の介入によっていとも簡単に崩れてしまった。 やはり千鶴も美人の類には入るが、薫の方が可愛いと思っていたのは内緒だ。 「悪かったと言ってるだろ」 「ん」 半分冗談でそんなに怒っている訳でもなく、が細い手を取ると薫は苦笑しながらされるままに任せている。 は艶やかな薫の黒髪に口付けをすると、目の前にある小さな肩に頭を乗せて瞳を閉じた。 こうして薫の傍に居させてくれる事が嬉しくて、薫の項に口付けをした。 「、お前俺の言う事聞く気ないだろ」 「何が?あぁ、大丈夫。痕はつけてないよ」 けろりとそう言うに何を言っても無駄だと悟った薫は、ふと意味ありげな笑みを浮かべた。 大抵こういう笑顔を見せる時は、何か企んでいるのを知っている。 は何かと小首を傾げたが、露になった首筋に薫が顔を近づけて思いきり噛みついた。 「……っ」 「やっぱりあまり美味しくないね」 「……当たり前だろ」 涙を浮かべて首を手で押さえながら痛さに転がるを見て薫は笑みを浮かべたが、どんなに跡を残しても数日もすれば消えてしまう。 同性である自分達は子を残す事すら出来ず、やがてくる戦場に向かってそこで散るのかもしれない。 残されるくらいならせめてより先に逝きたいと思ったその時、勢い良く腕を引かれての上に乗った。 力の上では同じ男といえど、には適わないとこういう時に思い知らされるのが悔しい。 「やだなぁ、こんな昼間から薫ちゃんてば」 「……殺されたいなら望み通りにしてやるよ」 薫がにやりと脇に置いていた刀に手を伸ばすと、は少し目を細めて優しく微笑んだ。 いつだって薫には笑っていて欲しいし、今まで一人で辛い思いをして来たのなら尚更一緒にいたい。 剣の腕はそこそこ立つと自分では自負しているが、は鬼ではないしどこまで一緒に歩んで行けるか分からない。 だからこそ、出来る限り傍にいて薫の為に何かしてやりたかった。 「薫、好きだ」 「馬鹿」 刀が音を立てて床に転がる。 握りしめたの着流しの浴衣は皺になったが、そんなことを気にする余裕もなく口付けを交わした。 ー幕ー |