もう外は夕焼けの色に染まっていて、は一人屯所の縁側に座って空を見上げていた。 そっと肩を抱き寄せられて驚きで身体がびくりと震えたが、相手が総司だとわかるとほっと力が抜けた。 「どうした?何か用事か?」 何もなかったようにが問いかければ沖田は小さくため息をついて、苦笑をしながらそっとの手を取った。 いつも飄々としていて土方などに怒られている総司だが、人の気持ちに敏感でいつも察して気遣ってくれる。 それが嬉しくもあり、そんなにわかりやすいほど気落ちしている様に見えるのかと肩を落とす時もあるけれど。 「何を落ち込んでるのか知らないけど、君が悩むなんて珍しいじゃない。一くんと一二を争うほどの冷静なが」 「冷静か……」 沖田はわざとなのかわからないが、核心を突くのが上手くいい意味でも悪い意味でも敵を作りやすい。 つい先程原田から言われた言葉がぐさりと胸を突いたが、自分でもわかっていたから仕方がないとも思っていた。 「誰かに、何か言われたの」 「別に怒られた訳ではないけど……もっと人を信用していい、お前は良いかも知れないが見ているこっちが心配になるって。 やっぱり左之助さんにはかなわないな」 あまり人に頼ったりせずに一人でこなすを見て、原田は軽く言ったのだろうがそう呟いて悲しそうな笑みを浮かべるのを見ていられなくて、沖田は強引に抱き寄せて胸に閉じ込める。 他の男の言葉での心が揺れるのを見たくなくて、優しく指先に口付けを落とした。 「総司?」 「は……僕しか見ないで」 まっすぐな瞳でそう言ったと思えば、の頬に手を添えて優しく唇を塞ぐ。 誰かに見られたらとかもうそんな事は頭から吹き飛んでいて、夢中で総司の熱い舌に己の舌を絡ませていた。 「いつもなら外でするな、とか怒るのにね」 子供っぽく笑った総司がからかうように言えば、は少し視線を落としてからそっと総司の瞳を覗き込むように額を合わせた。 「今日くらい多めに見てくれ。自分でもどうして揺れているのかわからない。気持ちが落ち着かないんだ」 「そう。なら、ちょっと付き合ってよ」 総司はそう言うと立ち上がり、右手をそっとに向かって差し出して微笑んだ。 「どこへ」 「内緒」 結局総司の誘いを断るという選択肢は自分の中にはなくて、総司と一緒ならこのまま新撰組を逃げてもいいかもしれないと思っている自分に気付いて驚いた。 新撰組が嫌いなわけでもなく、剣術も好きで今では斎藤や総司とも互角には剣を交えるほどにはなってきた。 だが、自分という道が見えないまま、走り続けてきたような気がして仕方なくなるときもある。 「もう少しだから」 「……あぁ」 いい大人が二人で手を繋いでいるのが周りに知られたらと思ったが、この手を離して欲しくないと願っているのも自分で相反する気持ちを持て余しているうちに目の前を風が通り過ぎた。 限りなく続いているかのように見える広い場所に青々とした竹林が目の前に広がっていて、風の音と共に葉の揺れる音しか聞こえずに思わず目を奪われる。 世界から隔離されて、まるでその空間だけ別の時間を刻んでいるような気さえしてくる。 「ここは僕のお気に入りの場所でね、子供達に教えてもらったんだ」 総司は大きく伸びをすると、そのまま地面に寝転がってを手招いて呼び寄せた。 「寝るのか?」 「いくら僕でもこんなところで寝たりしないよ。ちょっと休憩」 「そうか」 が総司の横に座ると思いっきり腕を引っ張られ、そのまま地面に押し倒されてしまった。 「っ、おい」 驚いて目を見張るとくすくすと笑っている総司がいて、なんともいえない気持ちになるが知らぬうちにの顔にも笑みが浮かんでいた。 「ねぇ、」 「なんだ」 仰向けに転がって竹林の上に開いた空を見上げると、視線を感じて総司を見ると真剣な眼差しがを捕らえて離さない。 この総司の瞳に見つめられるのが好きでもあるし、少し恥ずかしくもあったが視線を逸らさずに真っ直ぐ総司を見つめ返した。 「このまま二人だけで生きていけたらいいのにね」 「そうだな……。俺は……さっきお前と二人でこのまま生きていくのも悪くはないと思ったよ」 「それもいいかもね」 そう言って笑った総司の顔は嬉しそうで、思わずそっと唇を寄せると温かい温度が伝わり嬉しくて涙が零れる。 許されるならずっと傍で、この手を離さないでいてくれと思いながら総司に身を委ねた。 ー幕ー |