どうしてこの都に来たのだろうか。 はふと縁側の柱に寄りかかりながら、綺麗に整理された庭を見つめた。 友人の森村天真と共にこちらに来たはずなのに、何故か藤姫と呼ばれる姫がいるこの邸には俺一人しか来ていない。 確かに飛ばされる前までは一緒だったのに。 「……」 ため息もつけずにが外を見ていると、隣に誰か座ったのが見えた。 「姫は誰かをお待ちかな?それが私ならいいのだけれどね」 声が低くめなのに綺麗で、はびっくりして隣を見つめた。 縁側に腰を下ろしてこちらを見て微笑んでいるのは、深い緑の瞳に黒く綺麗な髪を流している男だった。 「誰……?」 「これは失礼したね。私は橘友雅だよ。藤姫から聞いてるよ、姫に間違うほどの少年が他の世界から来たのだとね」 それを聞いてはふと唇の端に笑みを浮かべ、自虐的に吐きすてた。 「姫じゃないしこの都の人間でもない。帰りたくとも帰る術すら知らないんだ」 「……君は鷹道のような事を言うね。君がここに来た事には何かの意味があるんだよ。君がここにいるおかげで私と会えたのだしね。もう少し身体を休めてもいいんじゃないかな?」 そう言って友雅はの肩を抱いて、胸に引き寄せた。いきなり抱きしめられて戸惑うより、何故か友雅のその温かさに触れて涙が溢れた。 「ふ……」 誰も知る人のいない世界で一人とは戸惑うのは当然の事で、友雅が自分を受け入れてくれてる事が は嬉しくて友雅の背に手を回した。 「……ありがとう」 「いや、私は何もしていないけれどね。さ、外でも見に行こうか。ずっと邸にいるのも味気無いものだしね」 そう言って友雅は立ち上がりを抱え上げて、縁側を歩き始めた。 「えっ、俺歩けるよ」 「大丈夫。私が連れて行きたいだけなのだから」 は近くにある友雅の顔を睨みつけたが、友雅は全然気にせずに姫に笑みを 浮かべて持ち帰った。 |