「誕生日おめでとう」 朝は家族から、登校中も教室に入ってからも友人たちに声を掛けられ、は少し照れくさい気分になるが、やはり嬉しいものである。 昼休みにも友人たちが声を掛けてくれる中で、不意に横合いから声を掛けられる。 「、ちょっと」 みれば、恋人である不二がいて、事情を知っているテニス部の面々が、行ってらっしゃいと送りだしてくれる。 「今の時間なら人も少ないだろうし屋上に行こうか」 頷き、テニス部の面々に断って連れ立って屋上に向かう。 「真っ先に言いたかったけど、出遅れちゃったかな」 「ううん。そんなことはないよ」 今日は朝練習もあったのだし、こればっかりは仕方ない。 「人から誕生日を祝われるのは、照れくさいけれど嬉しいね」 「誕生日は大切な日だからね、その人自身にも周りの人にとっても」 屋上の扉を開くと、清々しい青空が広がっている。 ここ最近天気も崩れていたので、久々の快晴だ。雨も嫌いではないが、やはり誕生日くらいは清々しい天気の方が、心持も良い。 「遅ればせながら、誕生日おめでとう」 不二の言葉にようやく誕生日なんだな、という気持ちになる。 家族からの言葉も、友人からの言葉も大切で嬉しいものだったが、やはり恋人の言葉はそれとはまた違った喜びがある。 「ありがとう」 素直に笑って返すと、そうだと不二が持ってきた鞄から小さな箱を取り出す。 「はい。誕生日プレゼントだよ」 ころりと手の上に乗ったプレゼントに、やはり嬉しさがこみ上げる。 「開けてみても良い?」 「どうぞ、その為に買って来たんだし、ここを選んだのもそのためだしね」 小さなその箱を開けると、出てきたのはシンプルなデザインの、銀の指輪だった。 「あまり良い物は買えなかったけど、に似合う物を選んだつもりなんだよ」 「ううん、十分だよ。ありがとう」 もう一度心こめてお礼をいうと、どう致しましてと嬉しそうな不二の声が返ってくる。 嬉しい事には嬉しいが、どの指に嵌めようか迷っていると、ひょいっと不二の手が伸びて指輪を小箱から抜き取る。 「お手をどうぞ」 すっと差し出された手に、気恥ずかしくなりながらも手を乗せると不二は楽しそうに笑う。 「本番は、きちんとにあった指輪を買えるようになってからね。今はここで我慢して、それまでは本命は取っておいて」 すっとの中指に嵌められた銀の指輪に不二の口付けが落とされる。 ぶわっと一気に顔が赤くなるのを感じて、慌てて眼を逸らすとぎゅっと体を抱きしめられる。 「生まれて来てくれて、僕を選んでくれてありがとう」 そっと囁かれた言葉に、ふと顔を上げると不二の綺麗な顔が傍にある。 「こちらこそ……ありがとう」 の言葉に、不二は優しく笑い、どちらからともなく顔が近づく。 今日は良い日和が続きそうであった。 ー幕ー |