「、何か欲しい物はあるか?」 さりげなさを装ってそう尋ねたジョットに、は僅かに首を傾げる。 「いや、特に欲しい物はないが……」 予想通りの答えに安堵しつつも、ジョットはそうか、と会話をそこで打ち切る。 は不思議そうにこちらを見ていたが、敢てそれ以上は突っ込んでこなかった。 ジョットはここ最近こんな調子でずっと悩んでいた。 理由は、ただ一つ。 最愛の恋人であるの事である。 美人で気だてもよく、自分の事に無頓着な事があるがそれが欠点とならない。 家の当主の役目を降り、隠居の身であるのに未だに家の事に心血を注いでいて、たまに恋人であるジョットの事をほったらかしにするのも、まぁそれは仕方がないと思う。 自分の築き上げた家は我が子の様に可愛い物であるのだろうし、ジョット自身もボンゴレが大切な気持ちが良く解るからだ。 まぁたまに寂しい時もあるが、楽しそうに部下と会話し、次代の当主を微笑ましく見つめる姿が可愛いので、それはそれで良い。 最愛の恋人には何でもしてあげたい、喜ばせたいと思うのは、男である(相手も男だが)の使命だと思っている。 そのためにボンゴレを次代に押しつけて、遠い日本に来たのだ。 そんな最愛の恋人であるの誕生日に、何かしてやりたいのだがこの期に及んで何も思い浮かばないのだ。 薔薇の花を渡したり、馬で遠乗りに出かけたり着物をあげたりと、何かに付けてあれこれ色々な事をしてきたが、やはり誕生日ともなればただ物を送る以外に何かしたいものである。 今までは、が喜びそうなものを選び、事実喜んでくれた。普段から自己主張しないに、甘えさせてやりたいと思う。 だが案の定、は何かして欲しい事や欲しい物を問うても、何時も決まった返事が返ってくるのである。 文机に向かっている後ろ姿を見つめ、ジョットは抱きかかえるように手を伸ばす。 「先ほどから……というか、先日からどうかしたのか?」 「のせいだ。というか、謙虚で慎ましいのはの美徳だが、いかんせん欲がなさすぎる」 ジョットの声に、は何がおかしいのかくすくすと鈴を転がしたように笑った。 「私は強欲だぞ。きっと死ぬ時には閻魔の元に連れて行かれるぐらいな」 ジョットの頬にそっと触れるの手を包み込む。 「こうして、大空をこの手で閉じ籠めているのだから。これ以上は何も望むまいよ」 の言葉にふーっと長いため息をつき、ジョットは強くの体を掻き抱く。 「誕生日だから何かしてやろうにもあげようにも、そんな事を言われては何も出来ないではないか」 そんなことか、とは相変わらず笑っている。 「ふふ、想ってくれるだけでも誕生日の贈り物としては十分過ぎよう。お前自身もそう言ったではないか」 いわれて、ふとジョットは自分の誕生日の事を思い出す。 あの時には日本に来て間もなくの時で、持っている着物が少なかったので気を利かせてくれたが、上等な着物を贈ってくれたのだ。 誕生日という風習がない日本で、まさか祝ってくれると思っていなかったジョットは、プレセント自体も嬉しかったがそのの気持ちが一番うれしかった。 今のもその時のジョットと同じ気持ちで居てくれるのだろう。 「あー……」 ジョットの漏らした声に怪訝そうにが首を傾げる。 「どうし……」 何か言おうとしたの口を。己のそれで塞ぐと、一瞬驚いたように見開いた目が、ゆるりと閉じる。 「が生まれてきてくれてよかった」 「急に何かと思えば……」 呆れたような、そんな声のにジョットは笑う。 「Buon compleanno」 囁くように耳元で呟くと、白い肌にほんのりと朱が走る。 「ありがとう」 そう笑うの姿に、心からこの日に感謝した。 ー幕ー |