貴方と居られる幸せ

「すごい量だな」
 普段から色々な物が置いてある部屋だが、今日に限っては物の量が倍に増えている。
 おまけにあまり物の値段に詳しくない土方でも解るほど、高価な品がごろごろしている。
 そんな物に囲まれるようにして、この部屋の主であるは機嫌よさそうに笑った。
「いらっしゃい、土方さん。その辺で避けて座っていいよ」
 とりあえず、置いてある物を退けて出来た空間に腰を下ろす。
「で、なんだこの物の数は」
 が自分でそろえた品だとは思えないので、客が置いて行った品だろう。客から金以外にも品をもらっているの部屋には、色々な物があるが今日はどれも気合の入った品が置いてある。
「今日は、俺の誕生日なんだよ」
 誕生日という言葉に、土方は眉根を寄せた。
 言葉の意味は解るが、行事自体の意味が解らない。
 誕生日というからに、恐らく今日はが生まれた日なのだろう。
 だが、こんなに物が贈られる意味が解らない。
「異国では、生まれた日を皆で祝うんだと。『誕生日おめでとう』ってな」
 の店は武士だろうが貴族だろうが異人だろうが、全く区別なく客が来る。
 礼儀を知らない輩は金を積まれても叩きだされるらしいが、基本的に気に入ればえり好みはしない。
 身分に囚われないからこそ、新選組とはいえ田舎者扱いされる土方もこうして気楽に訪れる事が出来る。最も、きっちり金は取られるのでその辺りは懐がかなり痛むが。
 異国の人間というだけで毛嫌いする人が多い中で、は誰であろうと物怖じしない稀有な人間だ。
 そんな馴染みの異人の客に生まれた日を尋ねられたのだという。
自身はうろ覚えで、とりあえずおおよそこの日だろうと言う日付を教えたのだと言う。
 そうした所、それがどう広まったのか知らないが、朝からひっきりなしに馴染みの客が顔を出し、色々な品を置いて行ったのだという。
「異国ではこの日に歳をとるんだってさ。よく解らんが、祝われるのは悪い気はしないな」
「なるほどな」
 普段よりも機嫌のよさそうなと、この部屋の物の多さに納得する。
「にしても、客がいないな」
 そんな日であれば、客ぐらい一日付いていそうなものだが、土方が来た時にはこの調子で、誰も来ていない。
「それはな、鬼の連中が俺の時間を買い取ってくれたのさ。今日一日は誰も相手もしなくていいようにって。だから他の客も色々な品だけ置いて帰ったのさ」
 通常であれば買い切りの場合はずっと買い切った人間の相手をするが、風間や天霧達が金だけ置いて自由に過ごせるよう、店主に計らってくれたらしい。
 おかげで、は来る客と顔は合わせるが、相手はしないで気ままにこうしてごろごろしているのだと言う。
 が鬼だと言うのは知っているが、直接風間達の話は聞いたことがない。だが、今の口ぶりからすると、随分と仲が良いらしい。
「そういう事なら、俺はそろそろ引き上げる。何も手土産は持っていないしな」
「ん、別にいいよ。こっちにはそんな風習はないしさ。それに誕生日って言うのは、何かを贈る日って意味じゃないようだしな」
 すっと立ち上がったが、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
「誕生日っていうのは、生まれてきた事を感謝する日なんだと。あとは、こうして出会えたことを感謝する日だ」
 土方が腕を伸ばすと、は誘われるように腕の中に収まる。
「んで、俺は一番貰いたい物をまだ貰ってないんだけどなー」
 悪戯っぽく笑うに、土方も小さく笑った。
「誕生日おめでとう」
 照れくさかったが、それでもはっきりとした言葉でいえば、はふわりと花が咲くように笑う。
「ありがとう」
 次こそは何か品を持って、一番に感謝の言葉を言ってやろうと、腕の中にいるを見て思った。

ー幕ー

Back