ゴーンと響く鐘の音が年の終わりを告げて、これで平成21年も終わりかと思うと不意に少し悲しく思ったと同時に新しい年への期待も高まる。 毎日同じような繰り返しの気がしていたのに、もう同じ年は巡ってこないと思うと不思議な気持ちだ。 白い息が寒さを物語っているがあまり寒い気がしないのは、首に巻いているマフラーと傍らに居るリョーマのおかげだろう。 何故か先ほどから手を繋がれて寄りかかられていて、 が視線をやると大きい瞳がにこりと笑みを浮かべている。 手袋もしていない の手は冷たいはずなのに、リョーマはしっかり握っていて離す気はないらしく強い意志が見え隠れしている。 「俺の手握って冷たくないのか?」 「馬鹿じゃない?寒いから握ってるんでしょ」 大晦日の日に馬鹿呼ばわりされるとは思わなかったが、屈託無く笑うリョーマの笑顔を見たら怒る気も失せてしまった。 そう言えば今年も喧嘩らしい喧嘩もしなかったと は気付いたが、リョーマと喧嘩というのも思い浮かばないのでいいかとも思う。 出会って恋人という関係になるまで時間はかからなかったというか、リョーマに押し切られるようにして始まった関係だったのが大きな要因かもしれない。 リョーマは一度決めたら頑として譲らないところがあって、 と付き合うときも嫌じゃないよねと退路を断って聞いてくるから性質が悪かった。 「いいよ、冷たくてもの手だし。それとも繋ぎたくないの?」 下から覗くように大きな瞳が覗き込んでいて、キラキラと輝いているリョーマのその瞳に は弱かった。 「繋ぎたくないわけじゃないけど」 「ならいいよね。はい」 声と共に差し出されたリョーマの手には湯気がたっている紙コップがあって、 が受け取ると暖かさと共に甘酒の匂いがした。 そういえば鐘をついた時におばちゃんが配っているのを見た気がして、 は遠慮なく一口貰って息をついた。 ちらりとリョーマを見るといつも前を見つめている瞳は上を見上げていて、何か夜空ではなく遠くの何かを見つめているようなそんな気がした。 「何か見える?」 「空」 当たり前の答えが返ってきて はがっくり肩を落としたが、リョーマは面白そうに肩を震わせていて悔しくてリョーマの頭を引き寄せて思いっきり胸に押し付けた。 笑いながらもがくリョーマが可愛くて頭を撫でると、嬉しそうに笑って抱きついてくるから も嬉しくて笑い返す。 「 、去年はお世話になったよね」 不意に改まってリョーマが口を開いて何事かと思ったが、長針と短針が重なっている腕時計を見て納得した。 もう新しい年がここからスタートする。 「今年も宜しくお願いします」 リョーマがそう言って頭を下げたから、 も大切な一年の始まりの挨拶をした。 「こちらこそお世話になりました。今年も宜しく」 「一緒にいてくれてありがと。今年も一緒にいてよ」 相変わらずのリョーマの言い方に苦笑をこぼしたが、言われて嫌な気がしないのは相手がリョーマだからだろう。 いつだって を振り回すのはリョーマで、振り回されるのが自分だけだと知っているから心地良い。 艶やかな黒髪に手を伸ばせば思ったとおりの柔らかい感触がして、 はちょっとした優越感に浸る。 捕らわれたのはリョーマなのか自分なのか、考えても答えは出ないがそれでもいいかと思う。 「願い事決まったよ」 自信たっぷりのリョーマがそう言うから何の話かと思ったが、どうやら今年の願い事らしい。 「まだ初詣じゃないんだが」 「聞きたくない?」 自信たっぷりなリョーマに はなんと言って良いか迷ったが、気になったのも事実なので素直に肯定するとリョーマははっきりと声音で宣言した。 「全国大会優勝をにあげる」 「……全国だよね。関東ではなくて」 一応念の為確認すると当たり前だとばかりに、リョーマはしっかりと の瞳を見つめて首を縦に振った。 全国といったらどれほどの学校数があるのか知らないが、そう易々と出来る事ではないだろう。 そんな事言われなくてもリョーマは出場した事はあるから知っているはずなのに、簡単に言ってしまうのは流石というより他にないだろう。 「んじゃ待ってる」 「うん。 が見ててくれれば出来るよ」 「応援くらいならするよ」 そう言って が微笑めばリョーマは当たり前だと言わんばかりに口元に笑みを浮かべた。 これから先も振り回されることが少し、楽しく思えた。 ー幕ー |