雷の様な大砲の様なとどろく音。 星がちりばめられた暗い空に、光の華が咲き誇る。 あちらこちらで歓声が上がり、夜だと言うのに昼間のように賑やかだ。 ジョットは初めて見る日本の花火に感嘆した。 もちろん、ジョットの祖国である伊太利亜は火薬の生産量が高く、花火などは何度か見たことがある。 英国などでは花火専門の学校まであるぐらいで、もちろん技術は優れているが日本の花火と比べると随分と印象が違う。 欧州では貴族の為に行われる花火が多い為、小さく屋敷の裏などで行われる。 しかし、日本では民衆の為に催され、何処からでも見えるような大きなもので、露店なども並び祭りのように大層賑やかだ。 とジョットの二人は河原の傍にある料亭の二階を借り、ゆったりと食事をしながら花火を眺めている。 民衆に混ざるのもそれはそれで楽しいだが、人ごみに慣れていないに配慮して、ジョットが前もって準備していた。 その甲斐もあって、下で見るよりも近い位置で花火が眺められ、ついでにとの二人の時間を満喫している。 「日本の花火はどうだ?」 感心しきりで呆けたように空を見上げるジョットに、がくすりと笑う。 自国と違う花火が大層美しく感じるのは、が隣にいるからでもあるのだろう。 普段は背に流している髪を高く結い上げ、普段は見えない白い項が晒されている。涼しげな浴衣は良く似合っているが、普段からきっちり着こんでいるにしては薄着なせいか艶めかしい。 「美しいな」 ジョットの言葉に、は楽しげに笑う。 花火のことだけではなく艶姿を見て言ったのだが、は気づいた様子もなく空を見上げる。 ぱっと空に赤い花が弾け、の白い肌に赤い花を咲かせる。 あぁ、綺麗だなと、思ったところでふとジョットはある事に気づく。 ちらりと料理の乗った膳を見やれば、その傍には幾つもの瓶子が転がっており、自分の手元を見ると朱色の盃にあまり量の減っていない酒が満たされている。 の肌は花火の灯りだけではなく、ほんのりと染まっていた。 「……飲み過ぎだ」 ひょいっと手にしている盃を取り上げると、は些かむっとして上目づかいにこちらを見つめて来る。 普段、見せない子供のようなその仕草に、うっかり取り上げた盃を返したくなるが、そこはぐっと自分の理性を押さえつける。 元々は酒好きだが酒癖が悪いわけではない。だから限度をわきまえているのだろうが、普段酒を入れない体に急に入れるのは良くない。 特に日本の酒は強く効きやすいため、ジョットもあまり多く飲むのを控えているのだ。 まだ拗ねているをそっと抱き寄せると、普段よりも体温が高めでこれはこれで心地が良い。 宥めるように口付けを落とすと、甘い酒の香りが立ち上る。 全てを吸いつくすように舌を伸ばすと、一瞬驚いたようにの舌が引っ込むが、少し待ってやるとゆっくりと絡められる。 酒が入るとは普段よりもジョットに流されやすくなる。 ゆったりと体を預けて来るの体を抱きしめ、このまま流されてくれるならと淡い期待を持ったところで、寄りかかるの体がふと重くなる。 「……」 見れば、はすやすやと既に寝息を立てており、そう言えばここ最近暑くてよく眠れないと漏らしていた事を思い出す。 久々の酒が入ったことで寝やすくなったのは良いことだが、このままお預けを喰らったままというは非常に精神衛生上によろしくない。 かといって起こすのも忍びなく、仕方なくジョットは力の抜けたの体を抱えなおし、そっと口付けを落とす。 「お休み」 夜闇に響く音と華やかな灯りを眺めながら、ジョットは置いていた盃を手に取り、満たされた酒を煽る。 辛みの強いはずの酒は、くらりと目眩のするほど甘く、久々に穏やかな酔いを味わった。 ー幕ー |