賑やかな笑い声と、陽気な歌と踊り。 灯された提灯などの御蔭もあって、夜の森の中だと言うのに明るい。 「ようこそ、レイコ殿の孫」 「いい加減その呼び名はやめてください」 言うと、はころころと笑う。 夏目はぐるりと辺りを見回す。そこには、獣のような姿をした者、丈が異常に大きなもの、面を被った者。 おおよそ人とはかけ離れた外見者達が集まっていた。 そう、妖怪たちの夏祭り会場なのである。 以前、妖怪たちの祭りに参加したことがあるが、あの時は燕の為に浴衣を取りに行くのにいっぱいいっぱいで祭りどころではなかったのだ。 今回も八ツ原に住む低級達やヒノエに誘われた時には、彼らに悪意がないにしても行くのを躊躇った。 本当は断ろうと思ったが、行こうかと思ったのはこのニャンコ先生こと、斑の話を聞いたからだ。 「も良ければ来いと言っていたぞ」 強い妖力を持つが故に、妖怪からはその血を得ればさらに強い力が手に入ると狙われ、人間からは人に化けられるので式に使えると狙われてきたのだと言う。 だが、レイコに会ってその名を友人帳に預けてからは、それも大分減ったらしい。 何度か名前を返そうと言った事はあるが、そのたびに首を横に振られているため、ずっと名前は預かったままになっている。 今まで妖怪には襲われ、人からは忌み嫌われてきたせいで、妖怪とも人間とも未だに距離を置いている夏目を何だかんだ言いつつも少し気にしてくれるは、数少ない友人であった。 も斑もいると思うと心強く、こうして一歩踏み出したのだ。 祭りと言っても露店が出ているわけでもなし、基本好き勝手に呑んだり騒いだりしているだけで、以前の祭りとは間違った雰囲気であった。 逆に言えば、こちらの方が落ち着いているので安心出来るのだが。 が案内してくれた場所には緋毛氈が敷かれ、すでに宴も酣である。 先に来ていた斑もぐでんぐでんになっており、ヒノエ低級達も既に出来上がっている。 酒を呑めない夏目は、自ら持参して来た塔子さんお手製の惣菜などを広げる。 友人の家で夕食を一緒にするのだと言ったら、あれこれと用意してくれたのである。 たちまちあちらこちらから手が伸び、祭りというよりは宴会である。 「これって祭りか?」 「まぁ、酒を呑む口実だな」 も先ほどから酒を口にしているが、周囲の者のように酒癖が悪いわけでもないらしい。 「、舞を舞ってくれ」 「おう、良い良い」 「久々に見たいのう」 ふいに上がった声で、次々に妖達が賛同し視線がに集まる。 眉根を寄せたに普段から面白い顔をしている斑が更に変形した顔で笑う。 「良いじゃないか。久々に見せろ」 嫌そうと言うよりは渋っているの姿に、思わず夏目も口を挟む。 「俺も……見たいです」 その言葉に、は僅かに溜息をついて立ち上がる。 「夏目に言われては仕方ないな。楽を持つ者は来い」 皆ささっと場所をあけ、まるで段取りでもできていたかのように、先ほど気ままに楽器を鳴らしていた妖達が集まって来る。 ゆったりと流れる楽の音に合わせて、が舞う。 時には手拍子を入れながら、美しい舞を眺める。 最初は気味悪そうに夏目を眺めていた妖達も、何時の間にやら夏目に食べ物を足してくれたり酒を注いだりしてくれる。 未成年なので呑まずにうけとったが、酔いが回っているからか妖怪たちは楽しそうに笑っている。 舞を終え、が一礼すれば拍手や歓声が沸き起こり、さらに賑やかになる。 「どうだ、来て良かったろう」 の言葉に、夏目は笑う。 「そうですね、酒は困りますけど」 もみくちゃにされながらも久々に妖怪たち笑い会い、大勢の中にいる事が楽しいと思えた。 「ありがとうございます」 はゆったりと笑い、先ほど夏目が押しつけられていた酒に口を付ける。 「未だに慣れぬ事もあるが、たまには良かろうよ」 も夏目もまだまだ不器用だが、少しずつ人や妖怪に慣れていければ良いのだ。 夏の宵はまだまだ深く、賑やかに更けて行った。 ー幕ー |