目の前に出されたそれを、はまじまじと見つめた。 片手に乗るほどの小さな箱が、綺麗にラッピングされている。しかも、ピンク色のたいそう可愛らしいレースのリボンで。 小箱に向けていた視線を、持ち主である獄寺 隼人に向ければ、眉根を寄せてこちらを見ている。 「……いらねぇのかよ」 いらないのか、と言うことはそれは自分に宛てた物なのだろうか。 「……俺宛てか?」 試しに聞いてみれば、「お前以外に誰がいんだよ!」と怒られた。 にしてみれば、最初の一言で解れというのが無理な話だ。そもそも、何かをもらう理由が見当たらない。 今日は誕生日ではないし、何か特別お礼をされるようなこともしていない。 とりあえず手を出せば、ぽとりと小さな箱が手のひらに落とされる。 思ったよりも軽い箱は、案外中身は小型のダイナマイトなんじゃないか、という気もしなくはない。 受け取ったまま固まっていると、獄寺は盛大にため息を付き、火をつけた煙草のフィルターを噛んだ。 「今日何の日だか知ってるか?」 言われて、今日の日付を思い出す。 「12月24日……が何か?」 当たり障りなく聞き返すと幻聴だろうが、ぶちっと血管の切れる音が聞こえた。 「だぁぁっぁぁ!!」 唐突に声を上げる獄寺から半歩距離を取り、様子をしばらく見守っているとこちらをきっと睨み付けてきた。 「クリスマス・イヴだろうがっ!!!」 「言われてみれば」 最近、街のあちらこちらでクリスマスソングが流れ、イルミネーションが輝いているのを見た気がする。 とはいえ、あまりイベント事に縁がないはすっかり忘れていた。 「しかも、お前十代目からパーティーに呼ばれてただろ!」 確かに、数日前からリボーンとツナからボンゴレのクリスマスパーティーに呼ばれていた。はファミリーではないが、ボンゴレと縁がないわけではないので、何かにつけて集まりには呼ばれている。 「ツナはともかく、リボーンは参加しないと怒るだろうな……。思い出させてくれて助かった」 「そうじゃなく!! だからお前に渡したそれはクリスマスプレゼントだって言ってんだよ!!」 話がそれていたが、手のひらに乗る小さな箱をもう一度眺める。 マフィアではないが裏の世界で生きると、完全にマフィアである獄寺は、所謂普通の人生というには程遠い道を歩むことになる。 最初は平穏な人生などなんとも思わなかったが、ボンゴレを通じてツナや獄寺とも知り合い、一緒に過ごすうちにまだまだ子供のうちは日の下で生き、平穏な日常を過ごすことも出来るのだと初めて知った。 それから獄寺と互いに意識するようになって、男同士であるが一応世間一般で言う、『恋人同士』になったのはつい先日のこと。 獄寺は眉間に皺を寄せてがしがしと頭を掻き、そっぽを向いて煙草を咥えた。 彼は帰国子女で、こちらとイタリアではクリスマスの文化も違うだろうに、誰かから聞いて用意してくれていたのだろう。 いくら縁がなかったとはいえ、恋人にプレゼントの一つもなく、挙句にイベント自体を忘れていたとあっては獄寺が怒るのも無理はない。 手のひらに乗るプレゼントは、ある意味ダイナマイト並みの攻撃力があった。 しばらく黙っていると、ちっと舌打ちが聞こえ、頭にぼすっと少し大きな手のひらが乗せられた。 「ったく……そんな顔させるために渡したんじゃねーんだよ」 幾分呆れも混じっているようだが、眉間に寄せられた皺は大分薄くなっている。 「すまなかった」 小さな箱を大切に包むようにして言うと、頭に置かれた手で軽めに叩かれる。 「他に言うことねーのかよ」 ぷいっと拗ねたようにまたそっぽを向いた獄寺に、は少しだけ袖を引く。 「……ありがとう」 ポツリとつぶやくと、相変わらず顔は背けたままだったが、僅かに見える耳が色づいていた。 渡されたプレゼントの包装は、店員に「恋人にですか?」と問われて思わず答えてしまい、可愛らしい仕立てにしてくれたらしい。 男が恋人にといえば相手は男だと思いもしないのだろうし、むしろそちらよりも店員の問いに素直に是を唱えたことの方が意外である。 「開けても?」 そう問えば、を後ろから抱えて座る獄寺が頷いた。 丁寧に箱を開ければ、中に入っていたのは指輪だった。 銀色の光を帯び、普段彼が付けているようなごつい物ではなく、とてもシンプルなデザインのものだ。 指先で摘んでしばし見つめ、それから自分の腹に回された獄寺の手を取る。 「何だよ」 「どうせならつけてもらおうかと」 取った手のひらに指輪を置くと、しばし悩んだ彼はの左手を手に取り、薬指に指輪を嵌めた。 指のサイズなど自身が知らないというのに、以前から嵌めていたかのようにぴったりと指に収まる。 どの指に嵌めることを想定して贈ってきたのかが分からなかったので、彼に自身に役目を押し付けてしまったが、予想は外れていなかったので小さく笑みを浮かべる。 「そういえば……何も用意してないな」 今日は12月24日。明日がクリスマス当日とはいえ、時間を掛けて選んでもらったものに対して、急いで無理やり何かを買うのも失礼な話である。 かといって、あまりこういった事に縁のないはボキャブラリーもないので、何をしたら獄寺が喜ぶのかと言われるとこれまた難しい。 まぁ、一番好きな物と言われたら、真っ先に思いつくのは物ではないが十代目こと沢田綱吉なのだろうが。 「流石にツナをやるわけにもいかないか」 ぽそりと呟いた言葉は小さいが聞こえていたようで、ぎゅっと抱きしめられた。 「十代目は物じゃねーよ。それに十代目だけじゃなくて、お前も大事なんだぜ。今年は仕方ねーから、来年なんか用意しろよ」 どこかの恋愛小説のような、甘い言葉になんとなくくすぐったくなる。 来年何か用意しろ、と言うことは来年もまたクリスマスを一緒に過ごすことが出来ると言うことだ。 興味がなかったイベント事も、彼がきっとまた何か用意してくれるのだろうから、忘れずに一緒に過ごして行こう。 冬空の下、左手に収まる指輪がきらりと輝いた。 ー幕ー |