熱を分け合う

 街が華やかなイルミネーションに囲まれ、商店街のスピーカーからはクリスマスソングが控えめに流れている。

 今日は12月25日で、一段と盛り上がっている。

 あちらこちらでケーキが売られ、さまざまな店からサンタの格好をした店員が顔を出していた。

「そういえば、ケーキはどうする?」

 隣を歩く宍戸の言葉に、はにこやかな笑みを浮かべる。

「ご心配なく。その辺りは抜かりなく準備してあります。しかも手作りで」

 ほんの少し誇らしげに言えば、くしゃりと柔らかく頭を撫でられる。

「誘っておいて、何も準備できなくて悪かったな」

「いんや、別に気にしてないし」

 宍戸はクリスマス直前まで、というか終業式直前まで授業の時間以外を全てテニスの練習に費やしていた。

 強豪校である氷帝は土日関係なく、厳しい練習がある。

 終業式も終わり冬休みに入ったことで、今日から練習も少なくなったので、宍戸が準備できないのは仕方がない。

 一方のは気ままな帰宅部なので、十分に用意する時間もあったしそれなりに準備自体を楽しんでいた。

 なにより、喜ばせる本人がいない方が、かえって驚かせ甲斐もあるというものだ。

 飲み物などを適当に買い込み、実家が遠いために一人暮らしをしているの家に向かう。

 一人暮らしは不便なことも多いが、こんな時にはよかったなとも思う。

 楽天的で奔放な両親は、男の恋人がいるなんて言っても全く気にしないどころか、もしかしたら宍戸を気にいるかもしれない。それでも、流石に親のいる家に恋人を上がらせるのは気が引けるものだ。

 滅多に一日一緒に居られることは少ないのだし、一緒に過ごせる日にはやはり二人だけで過ごしたい。

 我ながらどこぞの恋する乙女のようだが、この際そんなことは放っておく。

 楽しめさえすればいいのだ。

「あ」

 短い宍戸の言葉に、何事かと顔を上げると視界の端に白い物がちらつく。

「雪……か」

 細かい白い粒はひらひらと花弁のようにゆっくりと舞い落ちる。

 地面に達するとすぐに溶けてしまうが、次第に大きさも降って来る量も多くなってきた。

「まさにホワイトクリスマスだな」

 宍戸の言葉にはくすくすと笑う。

「サンタクロースのプレゼントかね。積もると良いな」

 朝起きて一面の雪だったら、それだけでも楽しい。

 楽しい気分になるのはありがたいが、やはり雪が降って来たために気温も下がっているらしく、厚着をしているのにやはり寒い。

 余り手袋が好きではないため、冷たくなった指先を手のひらで握りこむ。

 と、

「ほら」

 目の前に差し出されたのは、自分の物より大きく、肉刺ができている少し荒れたたくましい掌。

 ちらりと宍戸を見ると、僅かに目を逸らしていてその様子に思わず噴き出す。

「ってそこ笑うところか?!」

 若干臍を曲げて背を向けてしまった照れやな恋人に、は後ろから飛びつく。

「あーもう幸せ」

 唐突のことに慌てた宍戸だったが、の言葉と満足げな笑みに唸ってがしがしと頭を掻いた。

「あーもう風邪ひくから行くぞ!!」

 ひょいっと冷たくなった手を取られ、やや大股気味で歩く宍戸に慌てても歩調を合わせる。

「亮、亮」

 呼びかけに肩越しに振り向いた宍戸に、は顔を寄せる。

「メリークリスマス」

 の言葉に、今度は宍戸も笑った。

「メリークリスマス、

 少しかさついて冷たい唇が重なり、手と唇とで熱を分け合う。

 ふわりと舞い降りた雪の結晶は、落ちてきた時と同じようにふわりと溶けて消えていった。

ー幕ー

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