聖なる夜に

 白い雪の降る夜、ふと目を開けるとそこにはすやすやと寝息をたてる恋人の姿がありました。

 沢田家の夜は基本綱吉に母、リボーンのみなので寝るのは早いともいえる。

 しかしこの日に限ってはいつもと違い、綱吉は隣で何か動いた感触がして目を開けた。

 まだ夜明けには何時間もありすぎるし、誰かの奇襲にしては静か過ぎるしリボーンが起きないのもおかしい。

 自分の部屋なのに自分以外の人間がいるわけが無いが、沢田家にそれは通用しないと最近身を持って感じている。

 リボーンを筆頭にランボ、イーピンなども許可無く進入し、以前は同じ学校の雲雀まで窓から入ってきたのだ。

 綱吉本人は大人しく平和に過ごしたいだけなのに、何故か皆揃って集まる場所は此処と決まっているらしいから迷惑な話だ。

 また誰かが勝手に入ってきているのだろうと諦めて、綱吉が重い瞼をそっと開けると目の前に端正な顔立ちが覗いてびっくりした。

 危うく声を上げそうになったのを自らの手で口を閉じるという、綱吉ならではの行動で相手を起こさずに済んだ。

 何故か人の部屋で寝ているのは恋人の だった。

 しっかりといつも前を見据えている強い瞳は今閉じられて見えないが、こうしてまじまじ見ると綺麗な人だと改めて思い知る。

「何でがここに?」

 そっと問いかけるように囁いたが、当のは規則正しい呼吸をするだけで起きる気配が全くない。

 綱吉はの顔を見つめるだけで自分の心臓が高鳴るのを感じて、綱吉は目を逸らしたが結局抗えずにの髪に手を伸ばし優しく撫でた。

 並盛中学に入ってから色々な友人と知り合えたが、中でもと出会えたのは綱吉にとっては運命としか言いようがなかったと思う。

 いつもの通り獄寺と山本と三人で帰ろうとしたとき、雲雀に目を付けられたのが運のつきだった。

 リボーンの差し金で守護者となったものの、完全に仲間といえず自分の心に忠実に動いているため最も扱いにくい。

 今日も一発二発くらい食らわなければならないのかと思ったとき、雲雀の愛用の武器であるトンファーの動きが止まった。

 幾らたっても襲ってこないことに驚いた綱吉が目を開けると、そこに見た事もない剣道着に身を包んだ少年の後姿があった。

 綱吉と雲雀の間に割って入り、トンファーを竹刀で止めて見せたは綱吉達を振り返って笑みを浮かべた。

 には何故か場の雰囲気を和ませるような空気があって、綱吉は獄寺とも山本とも違う感覚に不思議と歓びを感じていた。

 この人と一緒に色々出来たら楽しいかもしれない、そう思って勇気を振り絞って友人の座を獲得して、それから恋人になるまでそう時間はかからなかった。

「何嬉しそうな顔でにやけてるの?綱吉」

 耳元で聞こえた声にびっくりして飛び上がれば、けらけらと笑うが起きていて綱吉はバツが悪く感じた。

 まさか出会いを思い出して笑っていたなんて口が裂けても本人に言えるわけがなく、綱吉が大きく首を振るとはくすりと笑って目を細めた。

「綱吉、ごめん、寝てた」

「えっと何でここに?」

 が勝手に不法侵入したとも考え難かったため、消去法で母が入れたと考えるのが妥当だろう。

 だが、息子が寝てるところへ他人を入れるとは、我が母ながらどうかとも思う。

「うん、ちょっとね。綱吉、今日何の日か知ってる?」

「12月25日?」

 改まって聞くことでもないと思いながら答えた綱吉は何か引っかかるものを感じたが、それが何かは上手くいえなくて目の前のの瞳を見つめた。

 自分の誕生日とも違うしリボーンの誕生日をが祝うとも思えない。

 頭にクエスクラメーションマークが飛び回る中、は自分の鞄の中から小さな袋を取り出した。

「綱吉さ、忘れてるだろうけど、今日クリスマスだよ。これプレゼント」

「あー――――!! そうだった!」

 が答えを言えば綱吉は青ざめた表情で立ち上がり、部屋の中を叫びながらうろたえる様はまるで檻の中の熊のようだった。

 綱吉はどこか抜けているところがあって、それも綱吉の可愛いところでもある。

 今更怒ったり悲しんだりはしないが、この反応は予想外だったと少し笑った。

「綱吉、プレゼントだってば。あけてみ」

 苦笑しながらそう言えば、綱吉は大人しくの前に座り袋を受け取ると静かに中身を取り出した。

 綺麗に梱包されていたものは時計で、実はもおそろいの時計を買ってある。

「うわぁ、かっこいい時計……ありがとう」

 笑みを浮かべた綱吉だが慌てて机の中をひっくり返し始めること10分。

 は手伝った方がいいのかとも思った矢先は、目的のものが見つかったらしく綱吉は再びの前に座った。

「気に入ってもらえると嬉しいんだけど」

 照れながら差し出した手には小さな箱が乗っていて、は喜んで綱吉から箱を受け取った。

「まさか用意してくれてるとは思わなかったから。ありがとう、綱吉。開けてもいい?」

「もちろん」

 笑顔でそう答えれば嬉しそうに笑って包みを開けるがいて、綱吉は用意しておいて良かったと思う。

 何にするか散々迷ったが、結局シンプルではあるが身に付けやすい指輪を送ることにした。

 学校にいる間は付けられないかもしれないと思い、チェーンも一緒に送ったのはずっと持っていて欲しいから。

 今も綱吉の首からは同じチェーンで指輪がぶら下がっている。

 朝からリボーンに連れまわされて前から用意して覚えていたクリスマスも、もう昼にはすっかり頭の外へ飛び出していた。

 そういえば明日はリボーンが用事があるらしく、一日修行がないとか言っていたのを思い出した。

 綱吉は嬉しそうに指輪を指に嵌めているを見つめ、そっとの手を握り締めた。

「えっと、俺、明日時間あるんだけど、どこか二人で行かない?」

「うん、いいよ。何処に行くかは綱吉に任せるから考えてね」

 そっと握った手を握り返されて、綱吉は頬が熱くなるのを感じたが同じくらいの頬が赤いのは気のせいではないだろう。

 も同じ熱を感じているのかと思うと無性に嬉しくて、綱吉はを抱きしめて髪に顔を埋めた。

、メリークリスマス」

「メリークリスマス、綱吉」

 綱吉は照れくさそうに笑って、の唇に優しいキスをした。

ー幕ー

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