喜びを君に

 街がいつもと違う顔を見せてくれるのは楽しくて、ウィンドウショッピングもついつい長くなるのは仕方が無い。

 学校帰りにふと雑貨屋でショーウインドウを覗いていると小さい可愛いツリーが飾ってあって、自分の家にはなんとなく似合わないような気がしたそれも侑士の家なら似合いそうな気がした。

 今度一緒に来てこのツリーを見ようと思いながら、はその店を後にした。

 今年は侑士と恋人になって初めてのクリスマス。

 プレゼントはマフラーというありきたりだが、散々迷って決めた侑士に似合いそうなグレーの肌触りのいいものだからいいかなとも思う。

 あとは本番を待つばかりだった。

 12月24日、待ちに待ったこの日、東京は珍しく降った雪で道路は渋滞し電車は徐行運転と悲惨な状況に陥った。

 侑士との約束の夜7時になってもそれは影響を受けていて、余裕を持って家を出たつもりがもう15分も過ぎていては走りながら駅前のツリーへと急いだ。

 連絡は入れてあるが、どうしてこんな日に雪なんか降るのかと少し憎らしく思う反面、ホワイトクリスマスに浮かれている自分もいて少し複雑な気分になった。

 目の前に光る大きなツリーが見えたのと同時に、その下に佇む紺色の髪が見えては大きく手を上げた。

「侑士、ごめん遅れたっ」

「ええよ、俺かて今来たところや」

 走ったせいで胸が苦しくて肩で息をしていると、侑士の大きな手がくしゃりと の髪を撫でてその優しさが嬉しくて笑みを浮かべた。

「ほな、いこか」

「うん。そう言えば夕食一緒にって言ってたけど、どこにするんだ?」

 どこか外で夕食を食べてプレゼント交換と思ったが、駅前を通り過ぎるからどうやら違うらしい。

 顔を上げて尋ねれば侑士が目を細めて笑っていて、がその笑顔に見とれていると手を優しく握られた。

 さっき来たばかりと言いながらも侑士の手は冷たくなっていて、待っていてくれた侑士の手をは自分の手で暖めるように強く握り返した。

「ん、俺んちやけどええ?」

「うん」

 は侑士に手を引かれるまま、歩いて少しの大きなマンションに連れて来られた。

 侑士に促されるまま室内に足を踏み入れれば、どこかのホテルのディナーのような豪華な食事にワイングラスなどがキラキラと輝いていた。

 が驚いて侑士を見上げると、嬉しそうな笑顔があってはこの顔に弱いなぁと改めて思った。

「俺、聞いてないよ。こんな……準備してあるなんて」

「そやろ。驚いてくれんかったら意味あらへんし」

 驚いているに満足したようにくつくつと笑う侑士は、さっそくボトルの口を開けてのグラスに注いでから自分のグラスにも注いでいく。

「飲酒、反対」

「人聞きの悪い事言わんといて。ノンアルコールやからええやろ」

 グラスを傾けるのも様になっていて、侑士の育ちの良さが出ているような気がする。

 も一口飲んでみたが微かにお酒の味と匂いがするだけで、飲みやすくてほっと息をついた。

 それから二人で色々な話をしているうちに、窓の外は闇が支配するようになっていた。

、メリークリスマス」

「メリークリスマス。侑士」

 の手には渡したプレゼントより小さな箱が乗り、不思議そうに見つめていると侑士はもうのプレゼントを開けて中身を覗いていた。

「それ、マフラーなんだけど、気に入らなかったらごめん」

 侑士は何も言わずに取り出して首に巻いたと思いきや、いきなり を引き寄せて大きな腕の中に閉じ込めた。

「っ侑士?」

「おおきに。大切に使わせてもらうわ。そや、プレゼント開けてみ」

「うん」

 侑士に後ろから抱え込まれては心臓が高鳴ったが、言われるがままに貰った小さい箱を開けた。

 入っていたのは綺麗な装飾がされているカフスで、 は驚いたが侑士の目の前で右の耳につけてみた。

 初めてつけたのだがこれなら穴を開けるピアスと違い、取り外しが簡単だしは嬉しくてしばらく指で自分の耳についたカフスを触っていた。

「侑士」

「ん?」

「嬉しい」

 がそう言って微笑めば、何故か侑士は大きく息をついて肩口に頭を乗せてきた。

 何かあったのかと思った瞬間にはもう侑士の顔が目の前にあって、 の唇はしっかりと侑士に塞がれてしまい慌てて目をきつく瞑った。

、反則やろ。可愛すぎ」

 は赤くなった顔を見られたくなくて侑士の胸に顔を埋めたが、侑士は嬉しそうに笑って の身体を優しく包み込んだ。

ー幕ー

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