寒いと思っていたらいつからか窓の外には白い雪が降り始めていて、道理で寒いはずだと苦笑しながら薪を暖炉にくべる。 この屋敷には幾つも部屋があるが、ほとんどが書庫の役割をしていて人の為に整備されていない。 物書きをしながら窓の外を見やると、この辺りには似つかわしくない馬車が一台走ってくるのが見えた。 きっとあの馬車に乗っているのはヴィンセントだろうと思いながら頬を緩ませガウンをはおり、玄関まで迎えに行くとちょうどドアをノックされた。 「、いるか」 「今開ける」 「いつも唐突だな」 「どうせ家にいるだろう?人気作家なんだから」 いつもふらりとやってくる男をいつものように部屋に招き入れて、温かい紅茶でもてなすといつになく真剣な顔が暖炉の火に照らされていた。 いつも用事があるのかと思えば、ただ休みに来たと言い小一時間ほど眠って出ていく事もある。 はヴィンセントが何を考えているのかわからなかったが、問いかけるだけ無駄だとわかれば気にならなくなった。 妙に気になるのは深夜に近い時間に来た事が今日初めて、というくらいだった。 大抵夕方に来て夜には帰っていくから、帰りを待つ人間がいるのだろうと思っていた。 何かあったのかと問おうとした唇が開くより、ヴィンセントが言葉を紡ぎだす方が早かった。 「今度屋敷で夜会を開く事になった」 「へぇ……?」 晩餐会やら舞踏会と言えば貴族にはつきものだろうに、当の本人が指を組み明らかに不本意そうにしているのがヴィンセントらしい。 なんらかの理由をつけて盛り上がりたくなるのはどこも一緒らしく、も出版社から呼ばれる事もたまにあるが行った事はない。 楽しい以前に窮屈そうに見えるのは自分だけなのか、が首を傾げて見ているとヴィンセントは楽しそうな笑みを浮かべた。 「君と知り合いだと言ったら呼んでくれと言われてね。気が進まないが、来てくれないか?」 「気が進まないわりには楽しそうに笑ってるが?」 「君と一緒に行けるし、お披露目にもなる」 お披露目と言われても社交性は持ち合わせていないし、ヴィンセントのように地位もない。 何よりヴィンセントの笑みが嫌な予感がして仕方がなくては嫌だと思ったが、こちらがなんと言おうと連れて行くときは有無を言わず連れて行くだろう事は予想出来た。 「、いいな?」 ヴィンセントは静かに立ち上げると、ペンを走らせているを後ろから抱き締めて首筋にキスをした。 びくりと身体が震えると喉奥でヴィンセントが笑ったのがわかって、は睨んだがヴィンセントの笑いは暫く止まなかった。 「ヴィンセント、後ろからするのはやめてくれ」 いつだって目の前の男はの心を掻き乱して、それが嫌ではないと思っているから尚更悪いのだろう。 「じゃ後ろじゃなければいい?」 「そういうのを詭弁って……」 言葉を遮って柔らかい唇が伝えたのはヴィンセントの熱だけで、唇を舐められるとどうしようもなくは震えた。 指を絡めて繰り返すキスは麻薬のようなもので、離れると恋しくて次を求めてしまう。 ヴィンセントの顔を見たくて少し瞳を開けると、切れ長の瞳がこちらを見ていては顔が赤くなるのを感じた。 口付けを離すと、銀色の糸がヴィンセントとを繋いでいて、ずっとこのままキスしていたいと思ってしまった。 「僕の手が汚れているのを知っても、君が一緒にいるのはどうしてかな……。いや、聞かなかった事にしてくれ」 聞こえるか聞こえないかくらいの呟きに、はどうしたら目の前にいるヴィンセントのいる位置まで手が届くのかと悲しくなった。 「俺はヴィンセントを離す気はないし、今更はなれる事は出来ないんだよ。ヴィンセントがどう思っていようが俺は、愛してるから」 「熱烈な愛の告白をありがとうと言いたい所だけど、少々過激だね。今は夜でここにはと僕しかいない。押し倒されても文句は言えないよ」 そういうとヴィンセントはを軽々と抱えて、驚いている唇に深い口付けをした。 ねっとりと食むような口付けにどうしようもなく、ただヴィンセントにしがみつくと喉奥でヴィンセントが笑ったのがわかって睨み付けた。 「あぁ、そうか。ベッドに行こうか」 「おいっ、誰もそんな事言ってな……」 「くくっ……本当には可愛い」 目尻に涙を浮かべて笑っているヴィンセントが憎らしかったが、この男に勝てた覚えが全くない。 仕方なく首に腕を回すとあやすように優しく頭を撫でられて、それが妙に気持ちよく感じて瞳を閉じた。 「?」 「気持ちいいんだ。お前の手優しくて」 「そう?ならずっとこうしててあげるから」 寒い冬がずっと好きだった。 寒さを理由にしてずっと彼と一緒にいれる。 ー幕ー |