寝返りを打とうとして身体を動かすと、ぎゅっと抱き締められて離れてくれない。 暑い夏は容赦なく湿気と日差しを連れてくるから、ウィンセントも例外なく暑いと思うのだが静かに寝息をたてているだけだった。 いつもの真っ直ぐにこちらを見つめる綺麗な瞳は瞼に隠されているが、整った眉にすっとした鼻が美しい。 綺麗な艶やかな黒い髪が魅力的で、そっと指先で触れるとさらりと流れた。 「ヴィンセント……」 そっと名を呟くと声が聞こえたのか少し唸られて、それが可愛く見えて思わず小さく笑みをこぼす。 もう暫くしたら朝食の準備に起きなくてはいけないが、今はまだこの綺麗な恋人を見ていたいと思う。 そっとヴィンセントの背中に腕を回せば、を抱き締めている腕はきつくなりさらにもう片方の手が顎かかり上を向かせられる。 「ヴィン……」 「少し気付いた方がいい。そんな目で見られて何もしない訳にはいかないだろう。それとも誘っているのかな」 そう言って優しくキスをしながら腰に手を回されて、思わず固まって凝視すると小さくウィンセントは笑って今度は唇をぺろりと舐められた。 「……っ」 あまりこの顔に免疫がついていないし、軽く触れてくるヴィンセントの手や唇にもまだ慣れていない。 知り合ってから相当時間がたつのにとヴィンセントからは苦笑されて呆れられたが、こればかりはもどうしようもない。 「、いい加減慣れなさい。まぁ慣れなくても問題はないけれど」 「っ……」 耳元で吐息混じりに囁かれた言葉と頬へのキスはの意識を溶かして、何も考えられなくなるのが怖くてそっと唇をヴィンセントのものへ押し当てた。 こんなに積極的に自分からした事がなかったからか、少し驚いた顔をしていたがヴィンセントはそっとの髪を優しく撫でて笑った。 彼の傍にいれる事が嬉しい反面、どうしていいかわからなくなるから怖くて、ヴィンセントの冷徹さも知っているから余計に戸惑うこともある。 他の貴族達にどんな噂をされているかも聞いたことがあるし、実際表には出ない出来事に関わっているのも知っているが自分から離れようと思ったことなどなかった。 むしろ、離れられて駄目になるのは自分の方だと思っていた。 「今日はずっとここにいようか?そうすれば君は僕に、僕は君になれると思うんだけど」 「何を……憧れるものは確かにある。だが、それでは抱きしめられないし、口付けもできないだろう?ヴィンセントはヴィンセントだから意味 があるんだ。それに今日は女王の呼び出しを受けているから午前中には起きなくてはいけないと言ったのは何処の誰だ」 じっとヴィンセントの顔を見ながら思っていることをそのまま口に出した途端、強い力で引き寄せられて口付けられ息継ぎのために開いた唇からヴィンセントの熱い体温の舌が入ってきた。 「んっう……」 思ったより長くて深い口付けに、は必死でヴィンセントを押し返そうとしたが離れるどころか背中を掌で確かめるように撫で、の細い腰をそっと抱き寄せた。 「やはり君は……」 「……っ、なに」 ヴィンセントはの濡れた唇をそっと親指で拭うと、首筋に唇を寄せて軽く噛み付いて白い肌に痕を残した。 「君を傷つけたくないと思うのに、痕を残したいと思うのは傲慢なのだろうな」 「それでいいんだろう」 そっとヴィンセントの噛んだところをそっと指でなぞると、鈍い痛みが広がって自分でも驚くほど嬉しいと感じてしまった。 「ヴィンセントがくれるものはなんでも受け取るよ。俺にはヴィンセントが全てなんだ」 「……あぁ」 そっと形のいい頭を抱きしめると、ヴィンセントは何も言わずにをベットに縫いとめるとそっと優しい口付けをした。 ー幕ー |