見続けたい夢

 ゆっくりと流れる時間を一緒の部屋で過ごすのは好きで、神田は分厚い本に目を通しながらちらりと視線を下に向けた。
 ベッドに座っている神田からは床に座っているの頭が見えて、綺麗な茶髪がさらさらと風に揺れていた。
 こうして一緒にいる事が増えたのは、一緒の任務についてからで同じ師についていた訳じゃないのに、だが神田自身が望んでいた事でもあって凄く嬉しく思っている。
 物怖じせずアクマに対して乗り込んでいく姿勢や、まっすぐで強い瞳に惹かれたのかもしれない。
 人に好意を持つなんて想像も出来なかったが、となら一緒に戦える気がしたし現に二人で任務に出かける事も効率を考えた結果か増えてきていた。
 守ったり守られたりするのではない、対等な関係が心地よく感じる。
 不意に目の前にいるに触りたい衝動にかられて、自分でも気付かぬうちに手を伸ばして触れる手前で手を止めた。
 何かが変わってしまうような気もするし、この手で触る事で由季が壊れてしまうような不安に駆られる。
 だが感情に揺れるなんて自分らしくないと思いつつ、欲求に負けてそっと指先で髪に触れた。
 だが、予想していた恐れやからの反応もいつまで経っても置きやしない。
?」
 も本を読んでいたはずが先程から手が止まっているのに気づき、神田はゆっくりとベッドから降りて顔を覗き込んだ。
 いつもアクマを睨んでいる鋭い視線は瞼に閉じられていて、やすらかな寝息が聞こえてくる。
「てめぇ、今日は一緒にいれる唯一の日じゃなかったのかよ」
 小声で毒づきながらの持っていた本を静かに取り上げて、神田は自分の方へ寄りかからせる。
 きっと休みが終わればいつもの日常が待っていて、また戦闘へ駆り出される日々が待っているのだろう。
 そう思ったが同じ任務であれば問題はなく、神田は自分が一緒にいたいだけだと気付くと苦笑を漏らしてを見つめた。
「ん……神田?」
「あぁ。よく寝てたな、お前」
 そう漏らせば驚いたように目を大きく開いて、まじまじと神田の顔を見つめてから少し小首を傾げて何も持っていない自分の手を見つめた。
「お前、本の心配かよ」
「それ、借り物だからね。それに神田は心配しなくても俺から黙って離れたりしないし」
 そうだろ?とでも言うように顔を見られれば肯定も否定も出来ず、ただの瞳から逸らして答えを探すように本を差し出した。
 顔をそらず神田をただ優しく微笑んで見ているから、ただを抱き寄せてきつく抱きしめた。
「ちょっと、神田?何かあった?」
「なんでもねぇよ」
「そう?」
 心配そうに聞いてくるに不安にさせたかと思ったが、神田がぶっきらぼうに否定すれば安心したようにほっと息をついたのが分かった。
 好きだも愛してるも口にしてはいないけれど、二人でいる事で伝わっていればいいと思うのはエゴなのだろうか。
「なぁ……」
「ん?」
 そっと神田を抱きしめているの手はただ優しく、温もりに包まれて身体の不要な力が抜けていく気がする。
「お前は俺が好きか」
 気になったことを聞きたかっただけで、自分でもこんなに直球で聞くつもりはなくて神田は慌てて否定しようと口を開いたが少し遅かった。
「好きだよって……照れてるだろ」
「うるせぇ」
「顔、赤いよ?」
「黙れって」
 図星を指されていてもたってもいられなくて、神田はの唇を強引に塞ぐと微かに笑ったのがわかって薄目を開ければこちらを見ている瞳とぶつかる。
 くちゅりと濡れた音が響く部屋は夕焼けにいつの間にか彩られ、二人の顔も赤く染めあげた。
 そのまま口付けをしていれば苦しくなってきたのか、ぎゅっと腕を掴むの手が見えて少し唇を離した。
「神田、少しは手加減しろって」
「あぁ、悪い」
 悪いと思ったが反応を返すも悪いと思いながら謝れば、微妙な言い方が気に食わなかったのか食いついてくる。
「本気で悪いと思ってないだろ」
「思ってなかったら謝らねぇよ」
「……確かに。神田は嘘言わないよな」
 わかってるなら言うなというように睨みつければ、ごめんごめんと謝ったが可愛くて頬に口付ければきょとんと神田を見たあと顔が赤くなった。
 今更そんなことで反応を返されるとも思ってなかったが、こういうのも悪くはないと思い始める。
 甘い言葉や仕草が好きなら望み通りに与えてやる。
「お前、可愛い、な」
「頼むから、爆弾発言はやめてくれ。それに心臓がもちそうにないから他の人間の前で言うなよ」
「誰がお前以外に聞かせるかよ。まぁ、牽制しとくのもありか」
 小さく呟いた後半の言葉にがびくりと神田を見つめれば、神田は何故か妙に納得したような顔をしていて本当に勘弁してくれと思う。
 真顔で言われれば冗談には聞こえなくて、本気で言いかねない気もするから怖くて仕方がない。
「神田……」
「何だ」
「なんでもない」
「そうか」
 小さく嘆息したに神田は満足そうに笑うと、そっと自分の唇を舐めた。
「覚悟しとけよ」
 神田はそう言うと自らの首にの腕を回して抱きつかせ、ふわりと身体を持ち上げてベッドへと運ぶ。
「もう、出来てる」
「そうか」
 が神田を引き寄せれば、苦笑を漏らしながらも体重をかけないように気遣って抱きしめてくれるから嬉しくなる。
 冷めることのない熱を持て余しながら、神田は静かにの唇を塞いだ。

ー幕ー

Back