ふわりと頬を撫でる風を感じて瞼を少し開けると、窓の傍に佇む一人の青年と大きな月が目に入った。 金色の綺麗な月に青年の綺麗な髪が合間って幻想的な絵画のようにも見えて、しばらく言葉も出せずに美しい後姿を見つめていた。 「起こしたか」 「あ、うん」 我に返ると深い紫色をした瞳がこちらを見ていて、はゆっくりとベッドから足を下ろすと三蔵の傍まで歩いた。 いつもの傍若無人は何処へ行ったのかと思うほど柔らかくこちらを見ていて、は三蔵の瞳を真っ直ぐに見る事が出来なかったが代わりに綺麗な月を見つめた。 三蔵と同じ金色の月がやわらかな光で夜を照らしていて、何を思って三蔵はこの月を見ていたのかと少し気になった。 「月、綺麗だね」 「……あぁ」 三蔵は短くそう言うと傍らのテーブルに置いてあったタバコを手に取り、一本を取り出すといつものように火をつけた。 何気ないその火をつける仕草が様になっていて、格好良く見えるのは気のせいではないと思う。 夜の闇に綺麗に輝く月と緩くたなびくタバコの煙と匂いが優しく包んでくれるような気がして、が大きく息を吸い込むと三蔵が苦笑したのがわかった。 「そんなに好きなら吸ってみるか?」 「いや、自分が吸うんじゃなくて……その匂いが好きだから」 いつも嗅ぎなれたタバコの匂いが特別な気がするのは、この月のせいかもしれないとは思ったが月だけのせいじゃなくて三蔵だから、なのかもしれない。 「そうか」 珍しくこちらにつっかかってこない三蔵にちらりと視線をやると、まっすぐに月を見つめていても月に視線を戻した。 冷たい青い月も暖かい光で闇夜を照らすのもまた同じ月で、見るものによって印象が違うのかもしれない。 出来る事ならこの先も夜が訪れるたびに会えるのは、今宵のような暖かい柔らかな光の月がいいと思った。 「もう少しこのまま月を見たい。お前はどうする」 三蔵は好きにしろと言いたかったのかも知れないが、言葉と裏腹に瞳はしっかりとを映していて離してくれそうになかった。 戦闘において負け知らずといってもいい強さを誇っているが、心の中までは誰もが不安や恐怖が渦巻いていてそれは三蔵も例外ではないはず。 それを外には滅多に出さないから厄介だが、要はこちらが少しのサインを見落とさなければ良いだけの話だとは思った。 「俺ももう少し見たい」 「なら、来い」 そう言うなり強い力で腕を掴まれてそのまま三蔵が寝るはずのベッドへと押し倒されて、三蔵もの横に仰向けに寝転がる。 「三蔵?」 「何だ」 紫暗の瞳は眩しそうにしながらも月を見つめ続けているが、三蔵の手はしっかりとの手を握っていて離すつもりはないらしく少し強められた。 少し自分より大きな掌がすっぽりと自分の手を包んでいて、居心地の良さを感じては笑みを浮かべた。 「明日も月が見えると良いね」 「見えなくてもいい。そこにあるのは変わらない」 てっきり肯定が返ってくると思っていたのに、三蔵らしい回答に笑いを零すと酷く不本意そうな三蔵の顔がこちらを見ていた。 三蔵に言われるとそうかと納得してしまう自分も考え物だと思うが、どうも惚れた弱みも重なって三蔵には勝てないらしい。 三蔵にならこの先も負けっぱなしでも良いかと思うのは末期なのだろうか。 「俺にとって月も三蔵も一緒だから」 「お前もか」 「何か言った?」 「いや」 三蔵はそれきり黙ってしまったが、何も言わなくてもこの繋いだ手が嬉しくて緩んだ頬を戻すことは出来なかった。 「そうやって笑ってればいい」 三蔵はそう言ってに覆いかぶさり唇を優しく塞いだ。 繋がれた手の熱さと唇から伝わる優しさが嬉しくて、は目の前の月に手を伸ばした。 ー幕ー |