ごつごつとした岩が転がっている砂漠を走るジープに揺られて、の頭も揺れるが隣の肩に寄りかかって起きる気配もない。 悟空も寝てしまったのか、さっきからいつも騒がしい声が聞こえない。 八戒がちらりとバックミラーを覗くと、三蔵は真ん中で不機嫌そうにしながらも寄りかかっているを嫌がる素振りを見せない。 「珍しくねぇか?あの三蔵様が後部座席でしかもあいつらに囲まれてるなんて」 「くんは昨日から体調悪そうでしたしね。悟空はずっとくんについてましたから。ただ 僕が初耳だったのは、三蔵とくんが昔馴染みって事ですね」 まぁなと呟く悟浄にも覇気はなく、何処までも続く砂漠に視線を投げて頬杖をついている。 食料を買い込んだ町の情報ではこの砂漠を越えた先には、緑に囲まれた豊かな土地があるらしい。 せめて今日の夜にはそれなりの宿でゆっくりとを寝かせてやりたい、そう思いながら八戒はジープのアクセルを踏み込んだ。 ふわりと鼻先を掠める風の匂いが変わった気がして、ゆっくりと瞳を開けると目の前には豊かな木々や煉瓦で出来た建物が見えてきた。 「起きたか」 隣から聞こえた低い声に視線を上げると、夜明けの空のように綺麗な色の瞳がじっとこちらを見ていた。 「うん。ごめん」 肩を落としたの顎をそっと指先であげて、三蔵がゆっくりと顔を近づけると隣でもぞもぞと動く物に気付いた。 悟空が寝返りを打ったのだろう。少しは空気を読めと言いたくなったが、今ハリセンで頭を叩いても五月蝿いだけだと思い直す。 三蔵は苦虫を噛んだように眉間に皺を寄せて、そんな三蔵を見てくすくすと笑っているを抱き寄せた。 「そういえば悟浄達は?」 「宿をとりに行っている」 嗅ぎ慣れた三蔵匂いがして、そっと瞳を閉じると唇に優しい感触が触れて彼とこんな風に過ごすのは久しぶりだなと嬉しくなった。 何かと騒がしいメンバーに輪をかけて周りの妖怪達が戦いを挑みに来るわけで、退屈はしなくてすむのだがうっとおしくて仕方が無い。 最近はだんだんと暑くなってきてそれに身体がまだ対応出来ずに体調を壊してからは、特にできることも無く三蔵や八戒から絶対安静を言い渡されてしまった。 三蔵や皆のように戦闘能力がある訳ではなく、ただ三蔵に言われたから付いて来ているだけで本当に良いのかと不安になる。 それを言えば俺が言いというのだからついて来いという三蔵の言葉が必ず返ってくるから、最近では口に出さないようにしていた。 言わせてしまうのは申し訳ないし、行きたいと願ったのは他でもない自分だったからきっと 三蔵が三仏神に掛け合ってくれたのだろう、その気持ちを無駄にはしたくない。 「お前は人を気にしすぎだからいい薬だろう。誰だ、雨の日に部屋を訪ねてきて一晩起きてた奴は」 「あ、うん。ごめん」 雨の日が苦手だと直接聞いた訳ではないが、人の気配に敏感でそっと自分のベットを抜け出して三蔵の部屋に行った事があった。 あの時の三蔵の背中を思い出すたびに心が痛くなって、三蔵を抱きしめずにはいられないのはのエゴだというのもちゃんと理解はしている。 が何かしたからといって変わるわけではないが、勝手に身体が動いていたのだから仕方が無いと言い訳をしてみる。 「次からは行かないから」 「誰もそうは言ってねぇだろ」 いつもお馴染みのパッケージのタバコを取り出して、火をつける三蔵を見てかっこいいなと思ってしまう自分はもう末期なのだろう。 「もう次の宿から俺と一緒に寝れば問題ないだろ」 「え?」 今まで三蔵が一緒の部屋に選んでいたのはせいぜい八戒ぐらいだったから、驚いて三蔵の顔を見た瞬間に軽く唇を合わせられて煙草のほろ苦い味がした。 「何をそんなに驚いてるんだ」 「いや、だって」 不意打ちのキスに一緒の部屋のお誘いに嬉しいことが二つ同時に起きて顔を赤くしていると、がさがさと草を掻き分けてくる音が聞こえた。 「あぁ、くん起きたんですね」 「あ、うん」 八戒が嬉しそうに笑いかけてくれたが、返事をするので精一杯だった。 「なんだ、お前、熱あるんじゃねぇの?」 悟浄がからかうようにそういえば、が慌てふためいて三蔵は嬉しそうにくくっと喉奥で笑った。 ー幕ー |