やっと冬休みが終わったばかりで、やっとグラウンドにも部活の生徒達が戻ってきて楽しそうな歓声を上げている。 その校舎から少し離れた教職員専用の棟で、不健康にも二人の教師が一つの部屋に集まって引き篭もりをしていた。 口寂しくてテーブルに置いた煙草に手を伸ばすと、目の前の愛しい恋人に軽く手を叩かれた。 「、やめろと言ってるだろ。身体に悪いぞ」 まるで生徒に言い聞かせるような口調につい笑うと、琥太郎は訝しげにこちらを睨み付けたがあまり効果はない。 綺麗な顔立ちが思いもよらず間近に来て、の鼓動は早くなったがなんでもない振りをして誤魔化した。 「琥太郎は俺の事生徒だと思ってない?」 目の前に置かれたコーヒーカップに手を伸ばしながらそう言うと、心外だとばかりに嘆息を漏らした琥太郎はじっとこちらを見つめてきた。 綺麗なエメラルド色をした髪を無造作に横へ流していて、首筋が露に見えるのが艶やかで独特の色気を放っている。 ほぼ男子校だというのにこんなに無防備で大丈夫なのかと思うが、綺麗過ぎて近づきにくいという生徒達の言い分もわからなくもない。 「こんなにでかい生徒はいらないぞ。それに生徒だったら部屋には連れてこないだろ」 「まぁな」 近くにいる事を許されているのは嬉しいが、先程から書類に目を落としている琥太郎はあまりこちらに構う気配はないのは正直面白くない。 仕方なく煙草に手を伸ばして火をつけて深く息を吸うと、いつもの苦い味が舌に広がった。 煙草の煙が身体によくないのはわかっているから、琥太郎には吸わせないように窓際に腰掛けて窓を開けるのが日課になりつつある。 本当は二人で出掛けるつもりだったが、仕事がたまっている琥太郎を放っておく事など出来るわけもなく部屋に押しかけたのは今日の朝の事。 琥太郎でなくては出来ない書類には手は出せないが、はお茶を淹れたりと雑用を進んで買って出た。 「そういえば……俺と琥太郎が出会ってから何年経ったっけ?時間経つの早いよな」 「そうだな。この学園で同級生だったお前が教員として戻ってくるとは思ってなかったよ」 「ん〜、なんでだろうな。琥太郎と一緒に送った学校生活みたいなものがまた送れればいいと思ってたんだ。たとえ琥太郎がいなかったとしても、この学園に携わってればまたいつか会えるんじゃないかとかさ」 視線を窓の外へ向けたまま女々しい自分の考えを自嘲気味に呟けば、後ろからふわりと腕を回されて嗅ぎなれた匂いが鼻先をくすぐる。 まだ火がついたままの煙草を灰皿でもみ消して、そっと琥太郎の腕に手を添えれば程よい重みが背中に加わった。 琥太郎と付き合い始めたのはが教員として星月学園に戻ってきた後で、高校時代には気持ちを伝えるどころか素振りも見せなかった。 もちろん友人としての付き合いはあったものの、一線を越えて取り返しがつかなくなるぐらいならと気持ちを封印して卒業した事をは少し後悔している。 だが戻ってきてみれば琥太郎が保健医としているのだから、願ったり適ったりだった訳で。 「俺は……」 「うん」 「が好きだ」 一滴の涙が琥太郎の瞳からこぼれるのを見ながら、この涙には決して勝てないのだろうなと思いそっと唇で涙を吸い取った。 泣かせたくないと思う反面自分の事で流してくれる涙なら見たいと思うのは、自分でもどうかと思うが綺麗だと思うのだから仕方が無い。 「なぁ、」 「なんだ?」 涙を見せた事を恥じたのか、の背中に顔を伏せたまま返事をした琥太郎が可愛く見えて指を絡めればきゅっと握られる。 そんな些細な触れ合いが嬉しくて笑みを浮かべていると、琥太郎は少し時間を置いた後小さく言葉を紡いだ。 「今度……一緒に住まないか?もちろんが良ければの話だが」 「良いに決まってるだろ」 嬉しくてきつく抱きしめれば、苦しいと文句を言いながらも琥太郎も抱き返してくれる。 「これからも一緒に居てくれ」 琥太郎がそう言って優しく唇を塞いでくれるから、は琥太郎の細い腰を抱き寄せて腕の中に閉じ込めた。 これからは新しい生活が幕を開ける。と琥太郎だけの時間が。 ー幕ー |