五月五日は世間一般的には子供の日である。
青空を鯉が泳ぎ、兜が飾られて柏餅を食べる。
またこの日は祝日であり大型連休のうちの一日で、皆家で過ごしたり家族と出かけたりと楽しく過ごすことだろう。
だが、は一人そんな日に学校の応接室のソファで一人座っていた。
と言うのも、今日は雲雀の誕生日なのである。
子供の日に誕生日というのは、普段の雲雀からは結び付かない事であるが、それでも恋人と言うポジションにあるにとっては大切な日である。
だと言うのに、当の本人は今日も学校に赴いており、しかも見回りと称して連休で浮かれる草食動物の群れを借りに出かけてしまっている。
予想が付いていたこととはいえ、あれこれと用意して来たの気分が若干降下気味になるのはいたしかたない事である。
元々、雲雀自身があまりそう言った事に頓着しない正確なのは熟知しているのだし、こちらの価値観を押し付ける気はない。
そうは思いつつも、生まれて来てくれた事を感謝しつつ、こうして出会えた事を祝う事ぐらいはしても構わないのではないかと思う。
見回りが何時に終わるかも解らないが、とりあえず一旦はここに帰って来るに違いない。
幸い、風紀委員ではないがここの出入りの許可は貰っているのだし、はごろりとソファに横になる。
帰って来るのは夕方になるのだろうし、この際昼寝でもしながら待つ事に決め込む。
連休中もこうしてのんびりする事もなかなかできなかったので、これはこれで良かったのかもしれない。
帰って来た雲雀が拗ねるかもしれないが、その様子も眺めるのも楽しいので、ゆっくりと目を閉じた。
ふわり、と前髪が揺れた事に気づき、ゆっくりと目を開ける。
「おはよう」
呆れたような、と表現した方が良いような声が直ぐ傍から聞こえて、焦点を合わせると雲雀が立っていた。
「お帰り」
そう言うと、雲雀は溜息をつきながら「ただいま」とだけ答える。
「それで君はなんでここにいて、寝てるの?」
言いながら、雲雀はふわりふわりとの前髪を撫でている。
少しくすぐったいが、それでも心地よいのでそのままにさせておく。
「今日は誕生日だろう?」
ふと手が止まったが、再び雲雀の手が動き出す。
「そうだったね」
「だからここで待っていたのさ。まぁ、待っている間に寝てしまったのは悪かったが」
少しむくれた様子の雲雀に、はくすくすと笑う。
「連絡すればよかったのに」
「流石にこちらの都合を押し付けるのも不躾だろう?」
雲雀が髪を撫でる手を止めたところで起き上がり、置いてあった自分の鞄を手繰り寄せる。
前もって用意していた小さな箱を確かめるように撫でてから、それを雲雀へと差し出した。
「誕生日おめでとう恭弥」
ひとつ瞬きをした雲雀は、の手から箱を受け取ると、そのままの体を抱きしめる。
大人しくそのままも雲雀の背に腕を回すと、どちらからともなく視線が絡み、互いの口唇が重なる。
ゆっくりと顔が離れ、酷く久しぶりに穏やかな顔の雲雀が見える。これだけでも十分ここに来た甲斐があったという物で、はゆるりと笑みを浮かべる。
「ありがとう」
耳にしっとりと雲雀の声が響き、先ほどよりも深い口付けが重ねられる。
来年も、またその次の年も、生まれてきたこの日を感謝できるよう、願いを込めて。
ー幕ー
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