また

 リングと匣の力が世界を統べる世界。
 十年前ですら、リングの力が信じられなかったというのに、一体誰がこんな世界になると予想しただろうか。
 そして、十年前と変わらぬ姿―――否、十年前の彼らがこの殺伐とした世界に来る事になるとは思いもよらなかった。
 ころん、ころんと自分の匣を転がしながら、はパソコンに映し出された膨大なデータの山を整理する。
 ミルフィオーレの動向、イタリアを始めとする世界の情勢。
 そして、未知なるリングと匣のデータ。
「そんなに粗雑に扱わないでよ」
 その声に、転がしていた匣の動きを止める。
 上を向けば、こちらを覗きこむ雲雀の姿があった。
「お帰り。ツナ達は?」
「連れて帰って来た」
 ただし、使い物にならなそうだけど、と余計な一言付きで。
 辛辣な言葉を吐きつつも、実力ならば確実に上を行く雲雀でも、十年前の彼等の力無くしては今の状況を変えることは難しい。
 最初こそ、賛成できる事ではなかったが、他ならぬボスであるツナと最強の守護者と謳われる雲雀が二人で決めたことであれば、は口を出せる事ではない。
「まぁ、この状況が不快なのは認めるけど」
 基本的に己の体一つで敵を屠り、並盛の秩序を守ってきた雲雀としては、ミルフィオーレが我が物顔で跋扈し、リングと匣を使って戦わなければならないこの状況は、よほど気に食わないのだろう。
 じっと見つめるの手には、美しい漆細工の小さな匣と雲雀から貰いうけたリングがある。
「出来れば使いたくないけど、逆に言えばこれぐらいしか今のところ対抗できる手段もないしね」
 雲雀にしては珍しく宥めるような物言いで、の髪を優しく撫でる。
 一番、辛いのは十年前から連れて来られた彼らなのだから、ここで憂いてもしかたないのだ。
「しっかりしないとな」
「そんなに気負いしなくても良いよ。これはボンゴレの問題で、君の問題じゃない」
「そう言うわけにはいかないだろ。仮にもボンゴレのアジトを利用しているわけだし」
 は正確にはボンゴレファミリーではない。
 中学生のころからツナ達と一緒に居たが、つかず離れずの立ち位置に居る。
 それは、余計な争いに巻き込まれないようにと雲雀が意図的に離しているのもあるが、客観的に物事を見極め、自由に動けるようにという自身の判断による物だ。
 とはいえ、既にミルフィオーレからはボンゴレファミリーの一人としての認識はされてしまっているため、こうして情報収集と分析を行っている。
 ずっと篭りっぱなしで逆に外に出て情報を集める、ビアンキ達に申し訳ないぐらいだ。
「ここはボンゴレのアジトじゃないよ」
「そうだったな」
 慣れ合いが嫌いな雲雀の意志で、繋がっては入るがここはボンゴレのアジトではない。
 そこには甘えて身を置かせてもらっている状況で、全く関係がないと割り切る事は出来ない。
 すりっと手元に何かが触り、見れば雲雀の匣生物のロールがいた。
 そう、この匣生物たちも悪い物ではない。
 戦いに使用される為に作られた存在であっても、使用者の意志一つで違う使用法だってあるはずなのだ。
「すっかり懐いたね。作られた存在だと言うのに、意志があると言うのも興味深い」
匣の謎に興味を持つ雲雀らしい意見に、 はくすりと笑ってロールを抱き上げる。
「今の恭弥も、十年前の恭弥もお前が助けてやってくれな」
きゅっと楽しそうに鳴いたロールだが、そろそろリングの力が切れてきたのだろう。
少し眠たげな表情になったので、雲雀に優しく返す。
受け取った雲雀は匣に戻して、匣を の転がしていた匣の隣に置く。
「もう、こんな地下に篭らなくても良いようにしてあげるよ」
後ろから抱き寄せられて、 はゆっくりと目を閉じる。
「そうしたら、また並盛中の屋上から朝日でも見ようか」
「良いね」
楽しげに笑いながら、雲雀が自分の手と の指から武骨なリングを抜き取る。
この場所に居る時だけは、リングは外して置いておく事にしている。
もちろん、何時ミルフィオーレの連中がここを襲ってくるかも解らないが、こうしている時には戦いを忘れていたかった。
上を向いてひたりと目を合わせれば、直ぐに雲雀から望む物が与えられる。
深く深く口付けを交わしながら、昔見た鮮やかな朝日を思い出す。

そう、全てが終わったら皆で並盛の屋上に集まって馬鹿みたいに笑いながら、皆で太陽を眺めよう。
雲雀は群れるのが嫌いだろうけど、きっと溜息をつきながらも付き合ってくれるに違いない。

そんな事を想いながら、 はゆっくりと雲雀の胸の中で目を閉じる。
必ず、この夢だけは手につかんで見せる。

ー幕ー

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