雨だれ

 湿気が纏わりつく、鬱陶しい季節だか、学校の中でもここは随分と過ごしやすい。
 適度にエアコンで除湿もされ、寒すぎない温度では猫のように革張りのソファで伸びをした。
「君は何でここで寛いでるの」
 室温よりも冷やかな声は、この学校の人間ならば一気に背筋が寒くなるものだが、は特に気にすることなくソファに転がったまま答える。
「それは風紀委員長殿が追い出さないから」
 寝転がっているからは雲雀の表情は見ることはできないが、僅かに漏らす嘆息は聞こえた。
 声はいつも冷やかだが、にはその微妙な変化は分かるつもりだ。
 珍しく書類の仕事中に声を掛けてきたのは、が寛いでいることに対して怒っているわけではなく、恐らく退屈だからだろう。
 普段ならば群れている相手を叩きのめすのが仕事だが、こうも雨続きだとなかなか外に出てくる連中も少ない。
 至って平和な放課後が数日続いている。
 梅雨が明ければ、夏休みにおのずと騒ぎを起こす群れが自然と出てくるので、雲雀の鬱憤も晴らすことができるだろう。
 それまでは仕方がないが、我慢するしかない。
 いっそ、いつでも晴れの良平が雨を退けてくれないかな、などと思ったりもしたが、いくら天の気を模したボンゴレファミリーとはいえ、天の気までは操るわけにはいかない。
「青空は恋しいけど」
「沢田の事じゃないだろうね」
 ふと影が落ちたので目を開けると、こちらを雲雀が覗きこんでいる。
 考えていることが言葉に出ていたらしい。
「なんでツナが出てくるんだ」
「ただ単に噛み殺す口実にするだけだよ」
 顔に浮かぶ笑顔は妙に輝いて物騒極まりない。
「やめてやってくれ。ただでさえリボーンにだらしがないと喝入れられてるんだから」
 最近のじめじめとした気候でバテ気味になっている綱吉は、ここ最近リボーンに喝を入れられている。
 当のリボーンも暇らしく、綱吉が若干哀れだ。
「いっそ、リボーンとやりあってきたらどうだ?」
 リボーンも丁度暇しているのだから、丁度よいのではないかと思うが、雲雀は面倒くさそうに眉根を寄せた。
「わざわざここから出ていくのも面倒」
「じゃぁ寝れば? どうせ草壁たちが戻ってくるまでまだ時間があるんだし」
 雲雀以外の風紀委員だちは今は見回り中で出払っている。
 普段は雲雀も行くのだが、獲物がいない見回りが退屈だという理由で、ここ最近は出歩いていない。
 何かあれば雲雀の携帯に連絡が来るし、下校までまだ二時間ほどはある。
 ちらりと時計を見て、雲雀もソファに横になる。
 二人寝転がっても十分な広さがあるソファは、寝心地が良い。
「お休み雲雀」
「お休み
 どうせ動かなければならない時は動くのだから、のんびり出来る時には動かないに限る。
 目を閉じると背中合わせに寝ている雲雀の低めの体温が心地よい。
 外の雨音をBGMにはゆっくりと睡魔に身をゆだねた。

ー幕ー

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