ぐっと伸びをして、はごろりと畳に寝転がった。
ミルフィオーレとリングを巡る戦いが終わってしばらく経つが、さまざまな事後処理に追われていた。
十年前のボンゴレファミリーと、自分がカタを付けてくれたが、彼らが戻ったあとは今の自分達が色々な事後処理にカタを着ける番だ。
お陰で、終わってほっとする前に慌ただしくなってしまい、戻ってきたツナ達や雲雀とも殆ど顔を合わせていない。
自身は組織に組みしていないので、あまり遣る事もないが、色々なデータをまとめたり細かな書類をさばいたりそれなりに手伝えることは会った。
だが、ようやくそれも終わりが見えて来た。
そういえば、とは起き上がって机の引き出しから、手紙を取り出した。
その手紙は「十年後の自分へ」と書かれており、十年前の自分からの物だ。
此方に戻ってきたら、自分が過去の自分へ置いて行ったように、手紙が置いてあった。
来た時に一度開いているがもう一度中を開くと、こちらの世界に飛ばした事に対する嫌味やら、匣についての事が簡素に書かれている。
そして気になるのが、最後の言葉だった。
「殴られるじゃ済まないぞ」
雲雀の事だから、まけてくれる事はなさそうだ。
「」
丁度、雲雀の声が聞こえ、は手紙をしまって返事を返す。
雲雀の方も入れ替わっている間の事後処理が、の比ではなく溜まっていた。
だが、草壁もいるし、雲雀自身の処理能力があるため、割りと重要な事は大方済ませているようだった。
雲雀は、疲労の色が少し見えている物の、相変わらずの様子だった。
同じ風紀財団のアジトにいても、あまり顔を合わせなかったので、久しぶりと言うより懐かしい。
どちらからともなく腕を伸ばし、は雲雀の胸に顔を押し当てる。
久しぶりに嗅ぐ雲雀の匂いに、ほっと体の力が抜ける。
「これで一区切りだね」
「そうだな」
優しく髪を撫でられ、上を見上げれば望む物が与えられる。
「十年前の俺の面倒見てくれてありがとうな」
「君はのみ込みが早いし、何より素直だったからね」
あまり手間は掛からなかった、と言う。今ほど駆け引きが上手くないので、確かに素直かも知れないが、まるで今が性格悪いように聞こえる。
と、雲雀は宥めるように額に口付けを落とす。
「冗談だよ。でも、こういう事に慣れてなかったのは可愛いかったな」
言いながら、もう一度口唇を塞がれる。
入って来た舌に自分の物を絡め、角度を変えて奥へ誘う。
飲み込めなかった唾液が顎を伝うが、お互い貪り合うように舌や歯列をなぞる。
離れると、顎を流れる唾液を丹念に舐められ、猫みたいだと頭を撫でると首筋を軽く噛まれた。
そうだ、この猫はどちらかと言えば凶暴で、咬み癖があるのを思い出した。
あまり強く歯を立てられた事はないので、好きにさせておこう、と思ったが先ほどの雲雀の言葉にぐいっと引き剥がした。
恨みがましい視線をいなし、は言葉を続ける。
「ちょっとまて、まさか十年前の俺にこんな事したのか?」
一応、十年前も恋人として付き合っていたが、流石にこんな事はしていなかった気がする。
手紙にも殴られろと冗談を書いたが、も雲雀が本気で殴るとは思っていないが雲雀の事だから、何らかの鬱憤晴らしをする可能性はあるとは考えていた。
だがその鬱憤晴らしは、殴るより精神衛生上よろしくないものだったらしい。
「大した事はしてないよ、見ていたらつい、ね……」
十年前の自分とは言え、彼らが成長したら今の世界の自分達と同じになるとは限らない。
だが、そんな事は露程にも気にならなかったらしい。
「大丈夫、彼は十年前の僕の物だ」
「あ、そう」
まぁ、あまり深く考えないようにしよう。
「それより、十年前の君から何か手紙とかあった?」
「あった…」
やけに機嫌の良さそうな雲雀に、ついは僅かに身を引く。
とは言え、がっちりと腰を掴まれているので逃げようがないのだが。
「その様子だと、覚悟はしているみたいだね」
「ええと…その…」
ぐいっと顔を寄せ、耳元に雲雀の声が吹き込まれる。
「手加減なんてしてやらないから」
あぁ、手紙の意味はこういう事か、とは押し倒されながら、目を閉じた。
ゆっくりと目を開け、手探りで時計を見るとまだ夜明け前だ。
少し肌寒くなってきたので、着物を取ろうと上体を起こそうとしてはぴたりと止めた。
腰が痺れるように痛み、思わず眉を顰める。
「痛い?」
雲雀の声に、はぱったりともう一度布団に倒れた。
代わりに雲雀が起き上がり、布団を引き上げてを抱きしめる。
「少しは加減しろよ……」
言うと、雲雀はくすくすと笑う。
「手加減しないって言ったでしょ」
幸せそうに笑みを浮かべる雲雀が腹立たしいが、動く元気もないので雲雀の胸板に頬を寄せる。
「まぁ、久しぶりでセーブができなかった、っていうのもあるけどね」
中学生相手に手も出せないし、という雲雀には溜息をつく。
「いたいけな中学生をいじめてやるなよ」
「昔はそうは思わなかったけど、改めてあの時のを見たら、つい嗜虐心をくすぐられてね」
さらりと恐ろしい事を言う雲雀だが、一応ちょっかいは出しつつもある程度抑えてくれていたらしい。
「そういえば、一度だけ、10年前の君からキスされたよ」
「へぇ」
やきもちは焼かないが、どういったシチュエーションでそうなったのかは気になる。
「ここに残って敵を殲滅する時にね。その後は10年前の僕と入れ替る予定だったから、別れの挨拶代わりに」
――― 何より『貴方』に会えて良かった
気を付けて、また貴方の『 』に会えるように俺も頑張るから
ありがとう雲雀
元々戦うこと自体は好きだから、苦にはならなかったが、あの言葉のおかげで妙に清々しい気分で、戦いに挑む事が出来た。
「あぁ、そうだ。忘れてた」
ぽむ、とが手を打ち、何事かと腕の中に居るを見つめる。
は顔が見えるように少しだけ布団の中で距離を開けた。
今まで抱き合っていたので、空いた所に少し冷たい空気が入り込む。
「お帰り、恭弥」
ふわり笑い、は腕を広げた。
きょうや、久々に呼ばれた名前に、今まで何かが足りないとぼんやり思っていた雲雀だが、ようやくその正体に気づいた。
「ただいま、僕の」
の腕に身を寄せると、ぎゅっと抱きしめられる。
背はの方が低いし、線も細いがこの腕に抱きしめられると安心できる。
普段はを抱きしめる事が多いが、こうして抱きしめられるのも嫌いではない。
幼子にするように優しく髪を撫でられ、の胸に頭を預けて息を吸い込むと甘い香りがする。
そうして、雲雀はゆっくりと目閉じた。
珍しく先に寝付いた雲雀を眺めて、は笑った。
ここ最近はずっと仕事をしていたので、今日は休んでも問題はないだろう。
ようやく自分の半身が帰って来たことが嬉しかった。
帰ってきたら色々やりたい事が合った。
ゆっくり休んで、起きたら久々に並盛中学の屋上に行こう。
そうして、朝日を眺めてまた馬鹿みたいに笑って過ごすのだ。
胸を膨らませながら、もゆっくりと目を閉じた。
ー幕ー
|