再び会うとき

 ボンゴレファミリーの10代目を継ぐであろう、沢田綱吉の話を聞いた時にふと頭に浮かびあがったのは、遠い過去に愛した男の姿だった。
 は と言う日本の裏組織を束ねる家に生まれ、齢十歳で家を継いだ。
 一族の当主となる者は、「言霊」と呼ばれる特殊な力を初代より脈々と受け継いでいた。
 もその力を受け継いでいるが、これまでの当主達が持っていなかった物も受け継いでいた。
 それは、初代家当主の記憶だ。
 家を作り上げ、現在まで続く力と名声を衰えさせない強い地盤の形成、全てを覚えていた。
 最初こそ、戸惑う事もあったが、家に残る後世に残す為に自分が書いた書物も残っていたのを見ても、やはり自分の記憶もただの思い込みや妄想ではなく、初代の物であるらしい。
 屋敷の趣も、部下も違うが家風は己が作った時から些かも変わっていない。
 言霊を使うのは、言の葉に命を宿す事である。
 それ故に、当主の寿命は短く、の父親である先代はが物心つくぐらいには亡くなった。
 母親はそれよりも前に亡くなっており、写真でしか見たことがない。
 幼くして家督を継いだが、部下も今まで当主の子としてか見ていなかったので、最初はついて来る者などいないのでないかと思った。
 だが、家督を継ぐと、父親の腹心の部下に宣言すると、意外にあっさりと受け入れられ、皆歓迎してくれた。
 腹心の部下に聞いて見ると、家督を継ぐ前から立ち振る舞いやら、物良いや頭の良さから(物心つく時から記憶があったので、子供らしくなかったのが理由だが)将来を嘱望されていたのだと言う。
 色々不思議に思う事はあれど、記憶にある初代の頃の様に、当たり前に当主としては過ごしていた。

 そんなある日、ボンゴレファミリーの9代目から親書が届いた。
 初代としての足掛かりに、海外とのやり取りを積極的に行っていたが、そんな時に力を貸してくれたのが、イタリアで生まれたばかりのボンゴレファミリーだった。
 互いに初代同士と言う事もあって、初代ボンゴレとは親しくなり、次代に継がせた後には日本で一緒に過ごした程だ。
 初代だけで終わるほど軽い関係ではないと思っていたが、こちらも関係は現代までずっと続いているらしい。
 親書には、当主継承の祝いの言葉などが書かれ、最後に日本に居る10代目について、書かれていた。
 10代目はマフィアの事など知らない庶子で同い年だという。

 最初こそ、驚いた。

 あのボンゴレファミリーの代替わりともなれば、もっと騒がれて居そうなものだが、そんな気配は一切ない。
 どうやら古い付き合いの家が若い当主になったのが嬉しく、まだ決まっていないし発表もされて居ないが、つい書いてしまったらしい。
 その後も多少のやり取りがあったが、取り分け互いに目立った関わりはなかった。
 しかし、それから二年後、正式にボンゴレファミリーからは招待を受けた。
 名目は9代目の誕生日パーティーだったが、日本とイタリアは離れている為に、普段はあまり呼ばれる事はない。
 行けない代わりに、手紙やプレゼントを贈る事ぐらいか。
 だが、正式な招待状には死炎印が灯され、ただの招待状ではない事が分かった。
 部下を連れてイタリアに向かうと、9代目は暖かくを迎えてくれた。
 初めて会うが手紙のやり取りをしていたせいか、あまり初めてと言う気もしない。
 9代目も孫の様な気分なのか、節度を持ちながら可愛いがってくれた。
 部下を下がらせ話をされたのは、10代目の事であった。
 まだ10代目が継ぐかは解らないが、狙う者も多く、何人か信用出来る者が既に日本に送り込まれていると言う。
 だが如何せん、イタリアと日本は離れ過ぎており情報技術が発達したとはいえ、まだまだ遅れがある。
 そこで、家に依頼をしたいのだと。
 申し訳なさそうに、9代目はボンゴレファミリー内での後継ぎ争いについても語ってくれた。
 古い付き合いとは言え、こんな子供に頼んで良いのかと言えば、逆にだからこそ、頼みたいのだと9代目は笑った。
 様子を見守り、たまには助言をしたり悩みを聞いてくれれば、それ以外は良いのだと9代目は言う。
 一番は、友達として10代目と接して、の見た10代目の様子を教えて欲しいのだという。
 だが、それをするには厄介事に巻き込まれる可能性もあるため、それ故にこうしてお願いという形で頼みたいらしい。
 は自分でもあっさりとその願いを了承していた。
 家はボンゴレファミリーと同じ長さの歴史を持つが、幸い跡目争いはなく、イタリアなどとは違いあまり周囲の家との争いもない。
 逆にが一番上にいて統括しているお陰で、多少の小競り合いなら直ぐに片付けられる。
 家は、所謂裏社会の一族としては随分平和に過ごしていた。
 ひとえに、初代以降の当主の辣腕と言霊の力の賜物で、だからこそ9代目の願いぐらいなら何の負担にもならなかった。
 イタリアでもの名は小国のマフィアと言うより、小国を陰から操る一族として随分名が知られているので、いざという時の牽制にもなる。
 そして、若きボンゴレ10代目と会う事になった。

「初めてお目に掛かります」
 丁寧に一礼すると、10代目こと、沢田綱吉は慌てて頭を下げた。
「は、初めまして」
 印象は違うが、全く初代ボスであるジョットと瓜二つな事に驚いた。
 横合いから口を挟んだのは、10代目の家庭教師であり、アルコバレーノと呼ばれる赤子――リボーンだ。
「固くならなくて良いぞ。コイツはまだボスじゃないからな」
 力関係、能力からしてものが全然上だと彼は言うが、あの9代目が他の候補を差し置いて推薦しているのだから、何某かの才が彼にはあるのだろう。
 とりあえずは、手助けとは言っても正式にボンゴレファミリーからの要請ではないので、あくまで私的になのだと改めて説明する。
 何かをされるわけでは無いと分かったからか、綱吉はふと表情を和らげた。
「良かったーさんはまともで」
「甘えんな駄目ツナ」
 リボーンに銃で脅され、綱吉は慌てた。
「いちいち銃を抜くなよ!」
 そんなやり取りを眺め、はそっと力を抜いた。
 これで彼がジョットのようだったら、また縋ってしまいそうだった。
 縋ってしまったがために、ジョットは富も名誉も地位も捨て、挙句に祖国を離れる事になってしまった。
 もう、誰かの人生を自分の為に使って欲しくなかった。
 綱吉はボンゴレファミリーを継がないと言っているようだし、ジョットとは違うので多分同じ轍は踏まなくて良さそうだった。

 も、あんなに誰かを愛する事はしたくない。

「何かあれば、遠慮なく言ってくれ」 「ありがとうございます」  部下の勧めで、は並盛中学に通うことも決まっていた。
 学校の拘束時間が長いのに、その間当主不在は大丈夫なのかと聞けば、土日は休みなのだから、5日ぐらいの不在はどうにでもなる、大事があれば直ぐに迎えに行くから大丈夫だと腹心は笑った。
 子供らしくない立ち振る舞いは、当主としては完璧だが、たまには同い年の人との交流が主にはあった方が良い、と部下達なりに気も使ってくれたらしい。
 こうして、ぎこちないながらも、綱吉との顔合わせが済んだ。
 部下達も心配そうだったが、顔合わせの後のを見てほっとしたようだった。
 そして、自身も思ったより動揺しなかったことに安堵し、彼が幸せに結婚し子を生みその子孫がいることを幸せに思った。

ー幕ー

Back