誰もいない水牢の中で彼は何を思い、何を感じていたのか俺には理解できない。 でも、これからは彼の近くで、少しでも彼が寂しいと思うことが無いように出来たらいいと思う。 「嬉しそうですね」 ベッドに座る六道骸は眩しいものを見るように、目を細めてを見つめてそう言った。 「え、骸は嬉しくないのか?やっと復讐者から出てこられたのに」 骸を見るの瞳は玩具を見つけたようにきらきらと輝いていて、これでマフィアの一員だと誰かに話したところで誰も信じたりしないだろう。 元々童顔だが子供のようにはしゃぐに、骸は苦笑して柔らかいベッドに寝転んだ。 つい先日復讐者から脱獄してに連れられて、イタリアの近郊にある家に連れてこられた。 骸がいない時ここを自宅として使っていたらしく、らしい物らしい家具や配置がされていて人となりが変わらない印象を受ける。 このベッドも彼のものだろう、少し匂いがするのに気付き大きく息を吸い込んだ。 犬や千種とは先程まで一緒だったが、彼らには先にボンゴレとの集合場所に向かってもらった。 もう少ししたら此処を出てボンゴレに合流し、百蘭に借りを返さねばならない。 ただやられてばかりというのは、しょうに合わないのだと身を持って実感する。 骸が思考に沈んでいると、ギシリとベッドが軋む音がしてがベッドに上がった事を知らせた。 「どうかしました?」 見れば上から覗き込むと視線が合い、先程の彼とは違い眉間に皺が寄っていて、何か悩ませるような事があったのか気になった。 「骸が難しい顔をしてるからだろ。ボンゴレに力貸すのは構わないけど、もう怪我するなよ」 百蘭の話になった時に怪我をした事がばれて以来、は骸の身体の心配をするようになった。 つらくないか、大丈夫かと聞く彼に骸は苦笑しながら平気だと答えたが、こんなにも彼が骸を心配する理由がわからなかった。 怪我なんてものはマフィアをやっている限りついてくる物で、今更そんなに気にするべき物ではない。 「怪我くらいどうってことないでしょう?僕はそんなに弱くはないですよ」 クフフと笑えば上から降ってくる冷たい雫が骸の頬を伝い、骸は驚いたようにの顔を見上げた。 大きな瞳から涙が流れ、小さい唇は何かに耐えるように噛み締められていて、骸は思わず手を伸ばしての頬に触れ涙を拭った。 「君はそんなに泣く子でしたっけ」 「お前のせいだろ。骸が強いのは知ってる。でもそれとこれは違うんだよ。自分の身体の傷は幻覚じゃどうにもならないだろ?自分の身体を軽く見ちゃいけないんだ。せっかく戻ってきたのに」 何かに耐えるようにきつくシーツを握るの手を無理やり放し、上に倒れてきたを骸は優しく抱きしめた。 「僕はどちらかと言えば乗られるより乗る方が好きなのですが、にならいいですよ?」 どうしてそういう話になるのか、笑っていう骸に少し腹が立ったが頭と腰に手を回されては抵抗出来ない。 大人しくなったに満足したように、骸はゆっくりとの頭を撫でて流れる髪の感触を堪能した。 「俺はそんな話してない」 「そうですか?てっきりこのままするのかと」 骸が耳元で囁けば腕の中の身体はびくりと震え、反応が面白くて骸はの顔に手を添えて見つめた。 案の定睨みつけるような厳しい視線に、骸は笑いを堪える。 きっとここで笑えば彼はすねて話を聞いてくれなくなると、長年の付き合いで知っている。 「お前の頭の中見てみたいよ」 「見せてあげられないくて残念です」 クフフと嬉しそうに笑った骸をは瞼に焼き付けるように見つめ、自らの唇を骸の唇に重ねた。 自由に何処までも行ってしまう骸だから、足枷の一つくらいあってもいいだろう。 どこにいても繋がっている二人になれればいい。 「骸、お前の心の中に俺がいればいいのに」 「君は不思議な事を言いますね。僕の中に君はもういますよ?随分前からね」 うろんげに見上げたの手を取り、骸は自分の胸に手をあててしっかりとの手を握り締めた。 規則正しく脈打つ心音と温かい手には安心したように、ゆっくりと息をついて骸を見上げる。 まるで捨てられた猫のように頼りない瞳が骸を捉えて放さない。 きっと本人は気付いていないだろうが、初めからこの中にはしかいなかった。 「それ、信じていいのか?」 「僕が嘘を言うと思いますか?」 「思う」 間髪いれずに帰って来た答えに骸は声を上げて笑ったが、は苦笑しただけだった。 きっと辛いときにはこの男の口から聞くことはないと思う。 自分に対しては厳しく、手の内を見せたものには甘いから。 「まぁ、いいでしょう。君はそう思っていれば」 「何だよ、その言い方」 「帰ってきたらゆっくり話しましょうか。ベッドの中で」 耳元で囁かれるのが苦手だと知っていてやる男は楽しそうな笑みを浮かべていて、はどうやったら骸に一矢報いる事が出来るか考えたが浮かんでこなかった。 結局骸に勝つことは出来ないのだ。 「お前ってそっちばかりな」 呆れたように言えば、当たり前だとばかりに返される。 「何年あそこにいたと思ってるんですか?」 「あ〜はいはい。帰ってからな」 適当にあしらうように言えば骸は嬉しそうな笑みを浮かべていて、は少し早まったかと思ったがもう後の祭りだった。 「クフフ、約束ですからね」 どうしてこの男をずっと自分は待っていたのかと己に問うが、答えは一つしかなかった。 結局、犬も千草も自分も骸が好きなのだ。 「」 呼ばれて顔を上げれば目の前には自分の部屋ではなく、青い空に白い雲とコバルトブルーの海が広がっていてはこれが骸の幻覚だと悟った。 実際に見るのは初めてだったが、ボンゴレ達が本物と見紛うのも無理はないと思う。 「骸?」 が呼べば目の前に現れて、当然のように手を差し出す骸がいて彼は本物の骸なのだろうかという疑心に駆られる。 「、目の前の僕だけを見ていて下さい」 「うん」 抱きしめた骸から温かい抱擁が与えられ、の瞳から一粒の涙がこぼれた。 |