俺だけの華

 白いカーテンが靡く病室に一人大人しくベッドに座っていると、ノックなしにいきなり白い扉が勢いよく開いた。

 こんな風に扉を開けてくるのは限られた人間で、 が知る中では雲の守護者と荒れている時の嵐の守護者ぐらいだったが前者は見舞いに来るとは思えなかった為消去法で後者だとわかる。

 はドアを開けた本人を見た瞬間、嬉しそうな笑みを浮かべて愛しい名を呼んだ。

「隼人、来てくれたんだな」

 会いたいと思っていた銀髪の彼は不機嫌そうな顔をしていたが、ベッド脇のイスにどかりと腰かけるとの手をきつく握りしめ自分の額へと当てる。

「隼人?」

 まるで祈りを捧げるようにしばらく目を閉じている獄寺を呼ぶと、深く澄んだ緑の瞳が眉間に皺を寄せた顔をしているだろう事は見ずとも予想がついた。

 怒られるのはわかっていたけれど、は自分の意思を曲げられなくて少し悲しそうに笑った。

「てめぇ、一人で敵のアジトに潜入してばれて大怪我負って入院って馬鹿じゃねぇの」

「馬鹿は否定しねぇけどな。でも綱吉の苦しそうな顔を見たくなかったんだ」

 はリボーンに誘われてボンゴレファミリーに入ったが、専ら綱吉の事務処理の手伝いをするのが専門だった。

 戦闘よりも事務処理が向いていたというそれだけで、戦えないわけではなかった。

 そんな時、あるファミリーがボンゴレを敵対視し、武器を集め始めたという情報が綱吉のもとに入ってきた。

 守護者は有名すぎて顔が知られている為、探りを入れるのは誰が行くかという話になったが名乗りをあげたのがだった。

「俺は反対だ」

 そう言ってに睨みを利かせた獄寺の顔に苦笑したが、役に立ちたかった思いは曲げられず結局反対を押し切って行く事にした。

 ただ予想外に規模が大きくて見つかり戦闘になってしまい、綱吉の言う言葉での解決に至らず申し訳なかったのが心残りだった。

「結局俺に行ってくるのメールだけ入れて単身乗り込んで行きやがって。左手骨折食らって良く生きてられたな」

 ちっと舌打ちの音がしてが視線を上げれば獄寺の目が合い、口では文句を言いながらも優しさが伝わってきて獄寺の頭を引き寄せて抱きしめた。

「そりゃ綱吉の命に反する事はできねぇし。命を粗末にはしない。でも……心配かけたな」

 詫びの言葉を入れればそれまで大人しかった獄寺がきつくの身体を抱きしめて、少し苦しかったがこれも想ってくれているという事だろうと甘んじて受けた。

 触り心地の良い銀色に輝く髪の感触を味わっていると頬に獄寺の手が触れて、は獄寺の顔を見上げると優しい色をした瞳が静かに見下ろしていた。

 お互いマフィアという事もあっていつ怪我や命を落とすかわからない状況で、ボンゴレはまだボスが穏健派という事で多少その可能性が薄れているに過ぎない。

 自分だけ守られているのが嫌だった、ちゃんと自分も大切なものを守りたかった。

「お前が……目の前からいなくなるなんて思わなかったんだ。一度決めたら曲げたりしないって知ってたはずなんだけどな。それがお前の尊敬する所だし好きな場所の一つでもある。ただ一つ言っておく。俺が知らないところでくたばったりしたら一生許さねぇ」

 獄寺はそういうとの細い指を手に取りまるで忠誠を誓うように静かに唇で触れた。

「凄い殺し文句だな。まぁそっくりそのまま隼人に返すけど」

 にやりと笑えば憮然とした顔の獄寺に出会い、そんな表情が見れて妙に嬉しくては顔を綻ばせた。

 獄寺の慕う綱吉になる事も他の守護者のように肩を並べて歩く事もきっと自分には出来ないし、獄寺も自分には望んでいないだろうことはわかっている。

 ただに出来るのは獄寺が任務で疲れたときに、温かく両手で迎えて話を聞いてやる事ぐらいだろう。

「俺が隼人に出来る事は限られてる」

に何かしてもらおうなんて思っちゃいねぇよ。ただてめぇは十代目の傍で笑ってりゃいい」

 そう言うとの目の前に影が出来て綺麗な顔が視界を遮り、温かな感触が唇に触れるから静かに瞳を閉じた。

ー幕ー

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