今にも雨が降りそうな灰色の雲を見ながら、は全力で走り出して自宅を目指す。 いつもの帰宅時間より早い事に余裕を感じてバスに乗るのを止めたのだが、歩き始めてから雨雲がある事に気付いた。 「ついてないな」 そう言ったところで状況は変わらないのはわかっているのだが、それでも言わなければやってられない。 最寄り駅からバスで20分はかかる長い道のりは歩くには遠すぎて、そんなを嘲笑うかのようにぽつりぽつりと雨が降り始めた。 いざとなったら近くの店に避難だと心に決めた瞬間、勢い良く腕を捕まれて身体がいきなり後ろに引っ張られた。 「」 力強い手はしっかりとの腕を掴んでいて、もう片方の手は腰に回されている事に気付く。 背中にはその人の体温を感じて、後ろから抱きしめられたのだとわかると顔が火照るのがわかった。 名乗りもされていないが捕まれる瞬間、確かに自分の名前を呼ばれたのを聞いたし何より身体がこの人の体温が知っている。 いきなり腕を捕まれた文句とか、転びそうになったを支えてくれたのはありがたいが腰に回した手はなんだとか色々言いたい事はある。 「」 「っ」 そんなを見透かしたように耳に唇を寄せて名前を呼ばれて、びくりと反応してしまいさらに顔を赤く染めた。 「恭弥……?」 そっと後ろを振り向けば、柔らかく微笑んでいる雲雀恭弥がいて久しぶりの再会に素直に嬉しいと感じている自分がいる。 同じ並盛小学校で知り合って付き合うようになったが、お互い仕事が忙しい関係でだんだんと会える日の間隔が長くなってきたのは仕方がない。 それでも十数年の間、恭弥はとの約束は最優先にしてくれたし、興味ないものは放っておく恭弥がちゃんとこまめに連絡してくるのは彼なりにを思っての事だろう。 「今日海外じゃなかったか?」 最初は手を離して欲しいと思ったが、文句を言っても結局離したくない時は何を言っても無駄なのを知っている。 ふと朝に入っていたメールを思い出してそう問うと、恭弥は何でもないと言うように頷いてそっとの髪に指を絡める。 「さっき空港に着いてそのままこっちに来たから、嘘じゃないよ。君こそ早く終わるなら連絡くれてもいいんじゃない?」 嘘つき呼ばわりするつもりはなかったが、何だか恭弥の言い方が拗ねているように聞こえるのは自分だけだろうか。 少し嬉しいと思ったときに、見計らったように空から雨が降り始める。 「あ〜、降ってきた」 「、少し付き合って」 そういうとの手をそっと握ってそのまま目的地も言わずに歩き出してしまい、それが恭弥らしくて久しぶりに恭弥が帰って来たのだと実感した。 言われるまま草壁さんが運転する車に乗り込んで走ること一時間、着いた先は恭弥の家でそういえばわざわざあそこに恭弥がいた理由を知らないことに気付いた。 仕事で疲れているだろうに、それでもわざわざの家の近くにいた理由。それは自分に会いに来てくれたとしか思えなかったが、それを口にするのは自意識過剰のような気もするし万一違ったときに困る。 それでも会いに来てくれたのは嬉しいと思う。 「てっきり外に買い物でも付き合うのかと思った」 「それじゃ二人きりになれないだろ。それとも……」 恭弥はにやりと笑いながらわざと顔を近づけて、唇が触れるか触れないかの距離まで詰め寄って顔を覗きこむ。 「は二人になりたくなかった?」 「そんなんじゃ……」 ない、言い切る前にもう唇は塞がれていて、熱い温度に身体が勝手に反応し始めての腕はしっかりと恭弥の背中に回っていてしがみつくように力をこめている。 それを恭弥はそっとあやすように手を撫でて、しっかりと繋いでくれるのが嬉しくてから恭弥の唇に触れると少し驚いたように恭弥の瞳が開かれたのがわかった。 「からキスしてくるなんて珍しいな。あぁ、だから雨なのかな」 「もう……しらねぇよ」 どう言いつくろっても恭弥を喜ばせるだけのような気がして、視線を雨が滴り落ちる窓に向ければ真剣な瞳をしている恭弥の瞳とぶつかった。 「な、なに?」 「雨、好き?」 「嫌いじゃ、ない」 質問の意図がわからなくてがそう答えれば、恭弥は何を思ったか降り続ける雨の中外へと裸足のまま庭に降り始める。 そうでなくても薄着なのに風邪をひくだろうと連れ戻しに一歩踏み出せば、愉しそうな笑みを浮かべている恭弥が手を差し出した。 白い手を取ればそのまま引き寄せられて、冷たい雨の中熱っぽい視線を向ける恭弥と抱き合う。 そのまま唇を奪われて、気付けば雨の中で何度も口付けを交わしていた。 「僕だけ見てればいい」 そう呟いた恭弥は酷く嬉しそうに笑っていた。 ー幕ー |