永遠に続く夢

「延王……いかがなさいましたか?」

 はっとして顔を上げると、書類の束を抱えた玲が心持ち心配げにこちらを見ていた。

 なんでもないと首を横に振ると、は口元に柔らかな笑みを乗せた。

「お疲れなのでしょう。少し休んではいかがですか」

 ここ最近、尚隆はずっと柳から流れ込む難民について頭を悩ませていた。

 慶が立ったといえ、まだまだ自国の事で精一杯で他国の難民救済が出来る余裕はない。

 それは恭も同じで、九十年の治世と云えども蓄えとしては少なく、やはりここは大国と 呼ばれる雁がどうにかしなければならないだろう。

「柳は持ち直すと思うか?」

 国が続くかどうかについてのの言葉は、外れることが少ない。

 尚隆よりも百年も前にこちらに流され、ずっとあちらこちらの国を見て回った見識は信 頼するに値する。

 だからこうしての意見を求めるのだが、尚隆が予想したのと同じ通り、少し表情を曇 らせては首を横に振った。

 国は必ずや滅び、永遠は続く事は無い。

 この国もいずれは滅びるのだ。それはもしかしたら、自分が滅ぼすのかもしれないし、 他の誰かが滅ぼすのかもしれない。

「どちらにせよ、骨が折れそうだな」

 思わず漏らした言葉に、は開きかけた口を閉じた。

「どうした?」

 不思議に思った尚隆の問いに、は首を横に振って笑った。

「いえ……なんでもありません。体を壊しては元も子もありませんし、王はお休みくださ い。こちらは、御璽を押すだけですから後で構いませんので」

 書類を置いて出て行こうとしたの手を、尚隆は掴んで引き止めた。

「いや……なんでもない」

 とっさで引き止めて、自分でも何故引き止めたのかも分からず尚隆は手を離した。

 は一瞬きょとんとしたものの直ぐに笑って、椅子に座る尚隆の前に膝を付いて頭を垂 れた。

「貴方から、私はいくつもの大切なものを頂きました。ですから、私の持ちうる全てで貴 方にお返しましょう」

 すっと顔を上げたは、酷く綺麗な笑みを浮かべていた。

「俺は……お前の全てで返すような物を与えた覚えはないぞ」

「それは覚えがないだけで、貴方は様々なものを与えているのですよ。だから、皆こうし てここにいるのでしょう」

 くすくすとは鈴を転がすように笑った。

「だが、お前はいずれここを出て行くのだろう?」

 自分でも大人気ないと持ったが、少し皮肉を込めて言うとは困ったような笑みを浮かべただけであった。

 少し待ってもが何も言わないので、尚隆は手招いてを抱き寄せた。

「否定したらどうだ?」

「私は移り気なのですよ。今、否と答えても明日は保障できません」

「……分かった。ずっととは言わん。今しばらくはここにいろ」

「仰せのままに……」

 永遠が続くとは限らない……そう言われていた世界とは違うこの世界では、もしかした ら永遠に続く夢くらい見ても良いのかもしれない。

 柔らかなの体温を感じながら、尚隆はゆっくりと目を閉じた。

―幕―

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