しんと静まった部屋。
外は出陣準備で慌しいのだろうが、ここにはそれは伝わっては来なかった。
牀に腰掛けたまま、はじっと目を閉じ深い溜め息をついた。
人界の二つの王朝の分け目は、人界の今後の運命の分け目。
周が勝たねば人界は牛種の思いのまま、天界の均衡も危うくなる。
からすると、人界の事は人に全てを任せるべきだと思っていた。
仮に暴君が王にって国が荒れ果てたとしても、それは人の創った物である。
天界がさも君主面して、人界に口を出す必要はないのだ。
としては牛種と天帝が戦うのはそれはそれで別に良いのだが、応戦するのが天帝ではなく竜種と言うことに苛立ちを持っていた。
君主に仕えるのが臣下の役目だが、それに付き合ってやる義理もない。
それでも人の世がそれなりに好きな竜王達は戦うのだろう。
いくら竜王達が強いと言えど、牛種との戦いは安易に片付けられるものではない。
そして、一番気に食わないのは、戦う事が出来ない自分自身だった。
北海黒竜王と共にここを守ると言う役割があるが、牛種に上の三竜王が負け
たとしたら自分達で太刀打ちできるはずもない。
そこまで考えてもう一度溜め息をつくと、軽く扉が叩かれた。
この城砦にいる者は主君達の出立で忙しいというのに、自分なんかに何の用だろうか。
「紅竜王様……」
驚くに、紅竜王は苦笑した。
「見送りには来てくれないのですか?」
真摯な瞳で言われて、は目を伏せた。
「……申し訳ございません。只今参りま……」
言い終らぬうちにぐいっと顎を持ち上げられ、口唇に深く口付けが落とされる。
口唇を離して、紅竜王は柔らかく笑っての頬を撫でた。
「竜種は牛種如きに屈しませんよ」
強い言葉に、は僅かに口元に笑みを浮かべ、紅竜王を促した。
「そろそろ出陣でしょう? 皆、貴方をお持ちしているでしょうから参りましょう」
「いえ皆、貴方を待っているのですよ」
そう言った紅竜王にが不思議そうに首を傾げると、彼は小さく笑っただけであった。
二人揃って門に向かうと、そこには既に準備を整えた数万の戦車兵が控えており、こちらに気付いた白竜王が手を振ってきた。
「あぁ来た来た。やっぱり出かけにの顔を見ないと何か落ちつかないんだ
よな」
「済みません。待たせてしまったようですね」
小さく謝ると、青竜王が笑った。
「いや、別に謝る必要はないさ。じゃぁ、そろそろ行くから季卿とここを頼む」
「御意」
頼むと言われたところで対した事は出来ないが、それでもは頷いた。
最後に紅竜王に目を移すと、強い視線が絡み合う。
彼は何も言っては来なかったが、それで十分だった。
「怪我に気をつけて」
と黒竜王が言えば上の兄達は笑って頷く。
「行くぞ」
「いってらっしゃいませ」
青竜王の威厳のある力強い声に、と他の者は深く頭を下げた。
兄達に手を振っていた黒竜王が、ふとこちらを向いたのでが首を傾げると、彼はにこやかに笑った。
「心配しなくても哥哥達は無事に帰ってきますよ」
「そうですね。では私達はのんびりとここを守っておきましょう」
はもう一度、彼らが去った方角を見据え、黒竜王と共に城砦に戻った。
革命が終るのは七日後……。
ー幕ー
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