はらはらと桜の花びらが舞っている。
今年も美しく咲き誇るその姿を眩しそうに見上げる人影が一つ。
腰まで届く黒髪を背に長し、青い衣を纏った美しい青年であった。
彼の名は。神木村の人間ではないが、一年に一度決まって十五夜が近くなるこの時期に、村人の誰にも気付かれない様にひっそりと姿を現す。
「Hello.グッドな夜だね」
「久しぶりだな」
ふわりと木の上に姿を現したウシワカに、はにやりと笑って見せた。
「折角久しぶりにあったんだ。一曲、聞かせてくれないか」
「ユーの頼みなら何時でもウェルカムだよ。だけれど、代わりにミーの願いも聞いてくれるかな?」
解っているだろう?と目で訴えられ、は仕方ないとでもいう様に肩を竦め
て懐から扇を取り出した。
ウシワカはそれを見て、腰のピロウトークを構えるとゆっくりと音を紡ぎ出し
た。
伸びやか旋律に合わせてが舞う。
今は冷たい、慈母の心に届くようにと。
聞こえているかは解らないが、それでも構わない。
さして長くもない一曲終えると、ウシワカはひらりとの元へ降りてきた。
「ユーも変わりないようだね」
「そういうお前もだな。まぁ互いに今更変わりようもないがな」
そう言って、くすくすと二人で笑い合う。
今年で九十九年目。
オロチがイザナギと白野威に倒されてから、もうそれほど経った。
サクヤの懐で眠る神を慈しむ様に見つめ、はそっと冷たい石像を撫でる。
「結果がどうなろうと、とりあえず今年で決着がつくさ。ユーには本当に……」
ウシワカの言葉を、はすっと手を上げて遮った。
「そんな言葉を貰っても嬉しくはない上に、そもそも必要はないさ。覚悟ならばあの時に既に出来ている」
「ソーリィ。そうだったね」
未来が見えるウシワカとて最後まではどうなるかは解らない。
しかしこれだけ待って、それなりの準備は整えた。
ならば後はやれるだけの事をやる事やって、信じるしかない。
少しばかり慈母の御前で座り込み、他愛ない話をしては立ち上がった。
「では、そろそろ私は行くとしよう」
「ユーは相変わらず忙しいね」
「お前こそ仕事があるだろうに」
「ノープロブレム。優秀な部下がいるし、今のところはその辺にいる妖怪を倒して行く程度だよ」
くすくすと笑い合って、はそっと冷たい白野威の像を撫でた。
「ではな」
「じゃぁ」
が言うと、ウシワカも片手を軽く上げて答える。
そして、何時の間にか二人の別れの挨拶になった言葉を紡ぐ。
また、桜の下で
ー幕ー
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