「」 放課後、誰もいない図書室で呼びとめられて、そちらを振り向いたは、一瞬相手が誰だかわからなかった。 「誰かと思えば……髪型だけでずいぶん印象も変わる物だね」 のほほんと言ったに、宍戸は曖昧に笑って見せた。 「それで、ここに来るのも珍しいね」 は図書委員長なので遅くまで図書室に残っている割合が多いが、テニス部である宍戸はがここを閉めて帰るときでもまだ練習を続けていた。 ここ最近は特に。 不動峰の橘という人物に負けたらしい宍戸は、この氷帝での掟に従いレギュラー落ちした。 どの部活でも言える事だが、公式試合に出れないというのは選手はかなり辛いだろう。 それも、最初から入っていなければまだいい。 一度レギュラーになれたのにその座から退かなければならないのは、それの比ではない。 しかし、宍戸は諦めなかった。 もう一度、レギュラーの座を手に入れる為、遅くまで残って練習をしていたのだ。 「すっきりしたその様子だと、レギュラー復活かな?」 そう言えば、半分照れた様に小さく宍戸は笑い、の前に歩いてきて不意に抱き寄せられた。 「悪かった」 囁かれた声に、小さく、それでもしっかり相手に聞こえるようにため息をついた。 「本当にね。少しぐらい言ってくれても良かったと思うんだけれど。もう少し遅ければ浮気でもしてたかもしれないね」 「なっ……!」 「冗談だよ」 きっぱり言ってやると、宍戸ははぁ〜と盛大に溜め息を付いた。 「でも半分は本当だったかな? 急に雰囲気が暗くなって、声をかけても無視されるし。おまけに、いつもなら帰る前に顔を出していたここにも来なくなって……原因がわからないからコートに行って見れば鳳君相手に練習してるし。一瞬後輩に手を出したのかと思ったぐらい」 「おまえな……」 言いかけたが、すっと普段なら見せない冷めた目に、口を閉じた。 「まぁ、本当にそう思ったわけじゃないけど。フェンス越しで見てたら、丁度来た部長様が丁寧に説明してくれたし。でも……宍戸にとって、俺はどうでもいい存在なのかと思った」 「そんなことないに決まってるだろ!」 「テニスの事は良く解らないし、選手にとってレギュラー落ちする事は精神的に辛いと言うのも、想像でしか出来ない。気休めにもならない慰めしか出来ない。でも……」 少しぐらい頼って欲しかった。 俯いたの目じりから流れたのは、一つの小さな滴だった。 こんな事を考えている場合ではないのだが、自分を思って流れた涙を、美しいと宍戸は思ってしまう。 「本当に悪かった」 の顎に手を伸ばそうとした時、が震えている事に気付いた。 否、良く見たら笑っている。 「オイ……」 「あぁ、ごめん……ついね」 目じりに浮かぶ涙を指で拭っているが、笑いを収めるのが必死といった体である。 「ちょっとしたし返しのつもりが、あまりに面白い反応だったものだからつい笑っちゃって」 釈然としない宍戸だが、これが普段のなのだ。 「でもまぁ、ここに来てくれただけでも、存在は残ってたって事だし。部長様にお付き合いのお断りしとかなきゃね」 「さっき言ってた半分本当の浮気相手はもしかして、ってかもしかしなくても跡部か?」 「うん。『俺の物になれ』って言われたよ。断ったけどね」 悪戯っぽくは言ったが、正直洒落にならない。 ぐいっと手を引いて、を自分の腕に収め上を向かせる。 「お前は俺のだ」 「どうかな? あまり所有物になるのは好きじゃないんだけど」 「お前から告白して来たんだろうが」 「まぁ、それはそれだよね」 「言ってろ」 不敵に笑って、の口唇に優しく口付けた。 |