金平糖

 かりっ、と小さな音がした。

 ふとそちらを見るといつの間にそこにいたのか、が座っていた。

「部外者は立ち入り禁止だぞ」

 跡部が居るのはテニス部の部室で、経費などの書類をまとめている最中である。

 遊びに来ただけなら帰れ、という意味を込めて言うがはくすくすと笑っただけである。

「俺とお前の仲だろうが。ほれ差し入れ」

 ひょいっと目の前に置かれたのは、色鮮やかな金平糖の入った袋であった。

 差し入れと言っておきながら、は先ほどから小さな音を立てて食べている。

「甘いものは嫌いだと言ってなかったか?」

 よくよく袋を見ると京都で作られているらしく、その辺に売っているものよりは上品そうなものである。

 ぽいっと口に放り込みながら、はふんと鼻を鳴らした。

「たまに食べたくなるんだよ。嫌なら無理に食えとは言わんぞ」

 指先に付いた粉を舐め取る舌の色が赤く見えて、跡部は思わずの体をぐいっと引き寄せて、跡部は朱を引いたような唇に自分の物を重ねた。

 逃げる素振りはないが、頭を抑えるようにして深く舌を絡ませる。

 の口腔内に残る細かく砕けた金平糖が溶けて、甘い味が広がった。

 たっぷり味わった後で開放して、の口の端を流れる飲み込み切れなかった唾液を舐め取った。

「甘いな」

 にやりと笑った跡部に、 は溜息をついた。

「お前って、行動が唐突だよな……っつーか、普通にこっち食えば良いだろうが」

「したくなったらするだけだ」

 きっぱりと言った跡部に「あ、そう」といっては再び金平糖を放り込んだ。

 西日が差し込む中、室内にはペンの走る音と金平糖を噛み砕く小さな音が響いていた。

ー幕ー

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