クリスマス

 おりしも今日はクリスマス当日。

 恋人達が愛を確かめ合ったり、プレゼントを渡したりと、色々忙しい日だったり するが、誰しも忙しいわけでもない。

 恋人がいなかったり、クリスマスどころではない人もいるのだ。

 忍足侑士は聞き慣れた音楽に耳を傾けながら、携帯に目を落とした。

「連絡しようか。そやけどバイトやったら邪魔やし」

 唸りながら考えるのは、年上の片思いの相手の事だった。

 氷帝学園テニス部のOBで、年に数回顔を出した事があるだ。

 3年前の部長で榊先生とも仲が良く、何かと卒業した後も学校に顔を出していた。

 榊先生や跡部だけで数が多い氷帝学園のテニス部をまとめるのは、不可能だ。

 レギュラーだけならまだしも、一、ニ年生も練習するのだ。

 そこで目をつけたのが、臨時の顧問をに押しつけることだった。

 結局大会までの間、レギュラー以外を押しつけられたは毎日学校に通う羽目になったが、そのおかげで個々の練習にも身が入った。

 その大会が終わるなりぱったりと来なくなっただったが、忍足は忘れることが出来なかった。

 あれは大会当日の昼の時だった。

 忍足は今までになかったほどに、何故か緊張で冷や汗が止まらなく不安になっていた。

 今までそんな事は無かったから、理由が解らない。

(なんでやろ。こんなに落ちつかなくなるんはなかったんに)

 ダブルスのパートナーである岳人や、ましては跡部にどうしたらいいなんて聞ける わけが無い。

 そう思った時、横合いから白い手が忍足の目に当てられた。

「なっなんや?!」

 冷たい掌に確かに感じる温もりに、驚いた忍足も次第に静かに目を閉じた。

「大丈夫。あんなに練習したんだから、来た球を自分の思う通りに返すだけだろ。

一人じゃない。皆いるから。お前だけじゃない」

 静かな声にそう言われ、忍足が声の主を見ようと腕に手をかけると、その手はす るりと解け忍足から離れて行った。

 夢かと思ったが、自分の心に残った安心感に、何より手の冷たさと言葉がずっと

響いて消えなかった事が現実と証明していた。

 誰かは見ていないが、榊先生やメンバー以外の人は一人しか知らなかったが、本 当にその人なのかと確信が無かった。

 でも、それまでの緊張がどこかに行ったかのように、気持ちがすっきりとしていた。そのお礼も言いえる事無くが帰ってしまった事に少しの残念さを感じていた。

 そのと再会したのは、大会から3ヶ月過ぎた去年の暮れの食事会だった。

 忘年会といっても飲み会ではなく、榊御用達の店に食事会としてテニス部メンバーで集まっただけだったが、跡部が世話になったという事でを呼んだのだ。

「なんだ、OBで呼んだの俺だけかよ。現役だけで盛りあがりゃいいのに」

 来て早々顔ぶれを見た時にはそう言って笑っていたが、忍足にはどうしても言いたいことがあった。

先輩、ちょっと話しがあるんやけど、ええですか?」

 始まって少したった時、忍足はを皆のいる所から離れたところに呼び出した。

「忍足もお疲れ。どした?」

 ほんのり頬が赤いのは先生に付き合って、酒でも飲んでいたのだろうか。

 しっとりと濡れた瞳に見つめられて、忍足はその時になって初めて自分が思っていた気持ちの名前がわかったような気がした。

「試合前に助けてくれたんは先輩ですよね?ほんまにありがとうございました」

「あれ? 気付いてたんだ?」

「はい。俺、先輩の事好きやから。覚えといてな」

 そう言うとは驚いた顔になって忍足を見つめたが、忍足は意地の悪い笑みを浮かべた。

 きっとその手で目を隠された時に、もうしか見えなくなっていたんだろう。

 そう思って笑った忍足にも笑みを返した。

「へぇ? んじゃ頑張って落として見ろよ?」

「後悔せんといてな」

 忍足がの唇に優しくキスをした。

 去年の出会いを思い出した後、携帯電話の一番に登録してある番号に手を伸ばした時、いきなり着メロがなり始めた。

その着信者の名前を見たとき、忍足の顔に笑みが浮かんだ。

Back