穏やかな昼下がり、外は雲一つもない快晴。

 こんな日に、機嫌が悪くなる人間はいないんじゃないか、というぐらい気持ちの良い日だった。

 『だった』と過去形なのは、リョーマは些か機嫌が下降気味だからである。

 それというのも、今リョーマの目の前で楽しそうに笑う人物のおかげだった。

「お前はここって時に、一番の表情を見せるなぁ」

 リョーマの家の畳の上で、カメラ片手にカルピンの撮影会をしているのは、 といい、三年で写真部の部長を務めている人物である。

 この三日間は試験の為に部活は無く、午前中で学校は終わるので猫を撮りたいと言うを家に連れてきたのだ。

 猫じゃらしでカルピンの気を引きつつ、カメラを覗く彼はこの上も無く幸せそうなのだが、リョーマは暇で暇で仕方なかった。

 彼と出会ってまだ一月ほどだが、その間にリョーマはに惹かれていた。

 写真を撮る時の楽しげな顔や、上手く撮れた時の満足そうな顔がとても綺麗に見えるし、さっぱりした性格で付き合いやすいからだ。

 そんなと二人きりというわけで喜んだものの、の意識は全てカルピンに向けられている。

 はっきり言って面白くない。

 しばらくじゃれていたカルピンだったが、不意にぴょんと庭に下りて行く。

 どうやら飽きてきたらしく、は少し残念そうにしつつも後を追わなかった。

「悪かったな、試験中に」

「別に大丈夫だけど、そういう先輩は勉強しなくていいの?」

 少しばかり嫌味を込めて言うと、は苦笑した。

「大丈夫じゃないんだけどな。最近曇りがちだっただろ? 何時またこんな風に晴れるか解らんから、今日はしない」

 夏休みだって秋だって晴れる日は晴れるのだろうが、にして見るとその時期その時期でまた違うらしい。

「そうだ、勉強しなくて良いんなら夜付き合わないか?」

「何でわざわざ夜に?」

 はニヤリと笑って見せた。

「今の時期、見れる物って言ったら蛍だろ? 話聞いたら、恐らく今夜一番飛ぶだろうってさ」

 放っておいた詫びに――

 酷く楽しそうに言ったに、リョーマも笑って返した。

「――いいよ」

 斜め向きだった機嫌も少し上がり、二人は初夏の高い空を見上げた。

ー幕ー

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