今より少しでも大人だったら君と離れたりはしなかったのに。 「ねぇ、今何て言ったの?」 「だから北海道に引越す事になったんだ」 冬にわざわざ寒い方へ行くなんて絶対間違ってると思いながら、越前リョーマは眉間に皺を寄せた。 一歳離れた恋人であるは苦笑しながら、恋人の大きな猫のような瞳を覗き込んだ。 夕暮れがもうすぐ夜を連れてくる。 持ち主がいない机や椅子たちが、夕日が照らすままに赤く照らされていた。 「ごめん。でも仕方ないんだ、親の都合だからね」 が割り切ったように見せるのが、リョーマには何故か腹立たしかった。 別れたくないと言っても、もう決まっているのだろうしそれこそ仕方ない事なのかもしれない。 ただ、それでわりきれる程リョーマは大人でもなかった。 「それで?いつ行くの?」 「三週間後だよ。丁度終業式だから」 三週間という具体的な数字が出た途端、何故かリョーマは目の前にいるが今にも消えていなくなりそうな気がして、の手をきつく握った。今、目の前にいる人が三週間で簡単に会えなくなる。 が死ぬ訳でもないが、簡単に会える距離でもない。 「リョーマ?」 うつ向きながら必死に手を握っていると、仕方ないなぁとが呟いたのがわかった。 「何が仕方ないんだよ」 「リョーマ、可愛いから」 答えになっていない返答を返すと、はリョーマの冷たくなった手を包み込んだ。 「ちゃんとリョーマの事好きだから帰ってくるし」 「いつ?」 リョーマはの手を離し、の背中に手を回した。 自分より温かい体温を感じてリョーマがほっと息をつくと、は笑みを浮かべる。 「リョーマが青学の柱になってる頃には戻ってくるよ」 「それって二年後って事?」 「かな。でも別れる訳じゃない。別れるつもりもないしね」 会えなくなっても繋がりが途切れる訳じゃない。 携帯という便利なものもあるし手紙だって送れるのだ。 それでも傍にいないのは悲しい。 リョーマはの温かさに包まれながら、ため息を溢した。 「わかった。でも待ってやらない。行くから」 「そんな暇無いんじゃない?」 「無いなら作ればいいじゃん」 リョーマは不敵な笑みを浮かべて、苦笑しているを見上げた。 「俺が行く間、他の男に取られたら取り返すから。でも、その時は覚えといてよ?」 「ん、でもそれはないかな」v はっきりとそう言うに、リョーマはいぶかしげな表情を浮かべたが、は人の悪い笑みを浮かべた。 「リョーマを愛しちゃってるしね」 「……」 リョーマは机の上に座ると、子供のようにに両方の手を差し出した。 「来て」 一つ年下の我が侭な、でも文句の言えない恋人の言う事を素直に聞いてがリョーマの前に立つと素直に首に腕が巻かれた。 は右手で机に手をついて支えながら、左手でリョーマの腰に手を回した。 「キスしていい?」 甘い吐息と一緒に言葉をリョーマの耳に入れると、リョーマは赤くなりながら小さく頷いた。 誰が見ているかわからない学校だとか、そんなことはもう頭にない。 リョーマの唇に甘いキスが降り注いだ。 |