動き出した思い

 最初に惹かれたのは、迷いを知らないその強い瞳だった。

 今もその思いは変わらず、ずっと手塚の姿を目で追っている。

 こんなに手塚を好きになるとは自分でも思ってもみなかった。

 独占とかは頭になくて、特別な存在になれなくても、近くに居れるだけで満足だと思っていた。

 あの時までは。

 文化祭が近くなり、校内もお祭りムードで盛り上がり始めている中、テニス部も何かやろうかという話が出た。

 主にお祭り好きな桃城や菊丸が騒いでいて、結局、簡単な飲食物を出す事になったのだ。

「そんなに人数はいらないから、店番は一年で回したらどうっすか? レギュラーは見物客寄せに試合とか」

「越前、楽しそうだね。試合出来るのが楽しみだよ」

 というリョーマと不二の不敵な笑みと言葉で決まったのを、皆は黙って見ているしかなかった。

 文化祭前日、準備が終わりが部室を出た時、誰かが外で話しているのが聞こえた。

「手塚はこのまま黙ってるつもり?それでいいの?」

 小声であまり聞こえないが、手塚と不二だとわかった。

「……お前こそどうなんだ」

「僕は手塚の事も好きだけどね……」

 その言葉が聞こえた瞬間、胸に痛いものが刺さったような気がして急いで はコートへと駆け出していた。

 不二と手塚は仲が良くて、いつも一緒にいたのは知っている。

 ただ自分がこんなに不安になる原因を、はわかっていなかった。

「ねぇ、何かあった?」

「わかんなっ……」

 何故か不二と手塚が話していた声が頭から離れなくて、はリョーマに抱きついた。

 同じくらいの背をした友人は何も言わず、ただ黙って傍に居てくれた。

「……ねぇ、って部長の事好きだったの?」

「うん……」

 目に涙を溜めてうつ向いたにリョーマが手を伸ばそうとした時、優しく の頭が引き寄せられた。

「どうしたの?」

「不二先輩!」

 びっくりしてが顔をあげると、優しい笑みを見せる不二の顔が近くにあった。

「越前、抜け駆けはダメだよ?」

 リョーマはそう言われると、不二を少し睨んで何か言ってから立ち去ってしまった。

「先輩、リョーマは何て」

「うん、越前らしいけどね。それより、さっき僕と手塚の会話聞いてた?」

 そう正面から言われてはいとも否定する訳にもいかず、はぎこちなく頷いた。

「途中……ですけど」

「そう。余計な事言うと手塚怒るから言わないけど、誤解だけはしないでね。 僕が本当に好きなのはくんだから」

「え……?」

 思いがけない告白に戸惑っていると、温かい不二の手が肩に置かれ、青い瞳 がの目の前に来てその綺麗さに見とれた。

「不二、何してる」

「見てわからない?くんは僕のになったんだよ。だから邪魔しないでくれる?」

 そう言われて驚いて手塚を見上げると、少し眉間に皺をよせてを見ていた。

「そうなのか?」

「好きな人は手塚先輩でっ」

 そうが言った時、手塚はの手を掴むと校舎内に入って行った。

 からは手塚の顔は見えないが、どこに行くんだろうと思った時重大な事に気づいた。

「先輩……」

 手塚はぴたりと立ち止まり、の顔を見つめた。

「なんだ?」

「僕告白しちゃったんですよね。さっき」

「……だから……。もういい」

 怒ったように言うとすぐ傍にあったクラスに二人で滑り込んだと同時に、強く抱きしめられていた。

「て、づか先輩」

「俺もが好きだ」

 そう手塚は呟くと、の唇を優しく塞いだ。

「手塚……いい度胸してるね。残り少ない部活の時間に甘い時間を過ごした上、僕のくんを奪うなんて」

 手塚達が不二の黒いオーラに気付くには、まだ時間がかかりそうだった。

終わり

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