今宵の華は

「っぁ……」
 さすが陰間茶屋の売れっ妓と言うだけあって、の体は感度も良く快楽に貪欲だ。
 こちらが優位であるはずなのに、いつの間にか意識が引きずり込まれそうになる。
「っふ……考え事出来るほど余裕があるんだ……?」
 喘ぎ声の切れ間には楽しそうに笑う。
 褥に広がる金の髪に潤む赤の目。だが潤んではいるがまだ余裕のあるその目を、溺れさせてみたいと思う。
「お前こそ……感じてねぇのかよ」
 ぐりっと菊座に入れた指を動かすと、嬌声と共にびくりと体が跳ねる。
「んぅ……見た目に似合わず……男扱いが巧いね……ほんとに初めて?」
 流石、手慣れているだけあって、の余裕は崩れない。
 もちろん、感じていないわけではないと思う(思いたい)が、癪に障る。
 だが、心地よいのは事実で、素直な体の反応や嬌声、絡めて来る腕などどれも女と行為に及ぶよりも楽しい。
 情事を楽しいというのも何だか不思議だが、自身が楽しんでいるせいかもしれない。
「普通……男相手にこんなことするか……っ」
 言うとはにやりと笑みを浮かべる。
「へぇ、俺が初か……悪くないな……んっ」
 首筋に赤い花を散らせると、白い肌にくっきりと浮かび上がりとても美しい。
 最も鬼の治癒能力の御蔭でそれもほとんど次の日には消えてしまう。
 商売柄都合がよいと本人は笑っていたが、正直面白くない。
 体はこうして手に入っても、は舞倍違う男の腕の中でもこうして花を咲かせている。
 商売柄仕方のない事で、最初からわかってはいたがせめて今だけは己の物したい。
 白い肌に僅かに歯を立てると、小さく体が跳ねる。
「……気が高ぶって吸血衝動でもでた?」
「こんな時にまで血生臭くてたまるか」
「じゃぁ縄張り行動……」
 こんな時にまで口の減らないの口を、土方は己の口で塞ぐ。
 体勢を変えようと腰を僅かに引き寄せた瞬間。


「っっ!!」


 声にならない悲鳴と、びくりと先ほどとは明らかに違う反応が返る。
 の顔を覗き見ると、しまったとでも言うような表情になり、直ぐに普段の表情に戻そうとしたが、土方は見逃さなかった。
「ここか」
「うわっちょ止め……」
 指を埋めている菊座の一瞬掠めた場所を、爪の先で僅かに引っ掻くと、同じ様な反応が返る。
「ふぁ……!」
 今まで微妙に指での愛撫の際に腰を振っていたのは、微妙に場所をずらす為だったらしい。 「なるほどな……」
 にっとこちらが笑みを深めると、うっとの顔が僅かに引きつる。
「余裕を見せて善がっていた振りとは、随分だなぁ」
「えぇーっと土方さん……善がってた振りなんて事は……」
 逃げ腰になるを押さえつけ、同じ個所を先ほどよりも強く引っ掻く。
「ちょっ……っあぁぁ!」
 びくびくと内壁が引くつき、ぽたぽたと愛液が流れ落ちる。
 弱いらしい一点を集中的に攻めながら、竿を舐めてやると硬さが徐々に増して来る。
「随分元気じゃねぇか」
「それはアンタも同じ……だろ?」
 つうっとしなやかな指が、土方の自身を緩く撫でる。
 弱いところを責められながらも、それでもは楽しそうに笑う。
 大分慣らした菊座から指を抜き、足を広げさせる。
 慣れているのか、羞恥心を見せることなく素直に晒されたそこに自身を宛がうと、ゆっくりと奥へ推し進める。
 は体を震わせたが、声を上げることなく、土方のそれが収まるまで大人しくしていた。
 全てが収まったところで、の口元がつうっと釣り上がる。
「っ……! てめぇ……」
 きゅうとに埋め込んだ自身が締め付けられ、土方は眉根を寄せた。
「結構、名器って喜ばれてるんだけど……気持ち良くない?」
 先ほどの意趣返しなのか、緩く腰を動かされるたび、土方が煽られる。
 女役がであるはずなのに、やはり場数の違いなのか立場が完全に逆である。
「っ結構きつくなってきたかな……」
 余裕のあるの呼吸も次第に荒くなって来る。
「遊んでるからだろっ……ったくこのまま出すぞ」
 土方の声には薄く笑って、口唇を重ねた。
 それを合図に、打ち付けるように腰を沈め、絶頂を迎える。
 目の奥が白くなり、凄まじい快楽と、盛大な疲労感が襲ってくる。
 体の負担としてはの方が大きいのだが、最初こそぐったりしていた物の、しばらくすると何時もの笑みを浮かべた。
「やってる時の土方さんはやっぱりいいなぁ……獣っぽくて。まさか壺を探られるとは思ってなかったけど」
 やはり普段は一番感じるところは客に触らせないらしい。
「他の客はどうだか知らねぇが……お前も趣味悪いな」
 男が初めての土方を遊ぶつもりがあったのかどうかは知らないが、こちらは溺れさせるだけ溺れて、相手が善がるふりだけというのは頂けない。
 まぁ偶然がなければ、見抜けなかったし、自身も楽しんではいたのだが。
「だってさ、商売道具だし。でも何だかんだ言って良かったでしょ? 俺も連続で久々に疲れたー料金まけてあげたんだからさ、清めるの手伝って」
 始末を手伝わせるのもどうかと思うが、実際土方は体験していないだけで、入れられる方の負担はやはり多いのだろう。
 廊下にいた店の者に頼んで、湯と手ぬぐいを頼むとそれでの体を清めてやる。
「あぁ、下は良いよ。自分でやるから」
「お前な、少しぐらい慎みとか持て」
「今さら? 掻き出したきゃ突っ込んでも良いけど、また料金とるよ」
 言われて、ぽいっと手ぬぐいを放れば、は脇息に寄りかかりながら秘所から流れる精液を拭う。
 土方の方も軽く手ぬぐいで拭えば、すっと汗が引いて心地が良い。
 話として聞いた事はあるが、男相手にあれほどの心地よさがあるとも思っていなかった分、逆に一度味わってしまえば中々忘れがたい。
 窓を開けて涼んでいると、処理を終えたが軽く着物を羽織って土方に寄りかかる。
 割と見た目はぴんぴんしているが、何処か気だるい様子のの体を普段より優しく抱き寄せる。
「あれ? 気を使ってくれるの?」
「お前俺を何だと思ってるんだ?」
 口では言いつつ、すっぽりと腕の中に収まったは土方の胸の辺りに頬を寄せる。
 軽く羽織った着物の隙間から見える情事の痕は直ぐに消えてしまうだろうが、今だけは自分の物だと思う事が出来て、密かに笑みを浮かべる。
 二人で見上げた空にはぽっかりと月が浮かんでいた。

ー幕ー

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