繋ぎ繋がれ

 昼間と打って変わって、しんと静まり返る屋敷の中。
 ジョットとは向かい合い、のんびりとした時間を過ごしていた。
 新たな年が始まる日の事を日本では正月と言い、大晦日から元旦にかけて忙しく立ち回り、ようやく夜になって一息ついている。
 特に、は隠居したとはいえ家では重要な立場である為、様々な神事やら習わしだのに引っ張りだこであった。
 ジョットはといえば、日本の風習に関して参加は出来ても準備などが手伝えなかった為、割とのんびり楽しんでいたのだが。
 屋敷には常ならば部下なり使用人がいるが、今日の所は正月という事もあってほとんどの人間が屋敷を離れて、各々の自宅で過ごしている。
 日中人の出入りが激しかっただけに、夜のこの静けさは逆に有り難い。
 それに、ジョットとしてはようやくと二人きりに慣れる幸せな時間でもあった。
「疲れただろう」
 徳利を持ち上げ、は小さな朱塗りの盃に酒を満たす。
「毎年の事だから、そうでもないさ」
 のんびりと酒を舐めるは、昼間よりも大分肩の力が抜けている。
 祝い事とはいえ、やはり部下に細かな指示を出したり準備などで気を張っていたに違いない。
 楽しげに笑うは、酒が入っているおかげで薄く色づいた肌が美しい。
 そして、正月という事で、普段よりも華やかな着物を纏っていた。
 袴などが正装として一般的なのだそうだが、は袴が似合う体型ではない、という理由で大層優美な長い袂の着物を着こんでいる。
 同じ屋敷や空間に居ながら、近い距離に居なかったおかげで思う存分抱き寄せたいところだが、疲れている事を考えてなけなしの理性で抑える。
 くすくすと笑う声が聞こえてみれば、が袂を口元に当てて笑っていた。
「随分と百面相をしているな」
 いわれて、うっとジョットは呻く。知らず知らずに顔に出ていたらしい。
「仕方ないだろう」
 普段気兼ねなく抱きついてはいるが、家の親戚だの何だの常にの周りに誰かいる状態で、流石に手を出すような事はしない。だが、綺麗に着飾ったを目の前に、逆に生殺しの様な気分でそれはそれで辛かったのも事実ではある。
「まぁ、そう拗ねるな」
 空になった盃を盆に戻し、僅かに離れていた距離をが縮める。
「ようやく二人きりになれただろう」
 するりと頬に伸ばして来たの手の上に、ジョットは己の手を重ねる。
 遠慮して居るところがある分、からこうして手を伸ばして来る事は珍しい。
 の方も疲れはあるのだろうが、こうして自分を求めてくれている。その事は純粋に嬉しくもあり途端に愛しさがこみ上げる。
 自制していた理性の箍も、間近で花の顔をみれば簡単に外されてしまう。
「いいのか」
 ジョットの言葉はただそれだけであったが、はゆるりと目蓋を伏せた。



「ふっ……」
 息継ぎの間に吐息と共に響く、甘やかな掠れた声が心地よい。
 向かい合って舌を絡め合い、酒精で色づく体を丁寧な手つきで開いてゆく。
 艶やかな着物で乱れるの姿は美しいが、大層高直な品である上に着物は手入れが難しい分、洗うのが大変な物である。
 顎を捉えているのとは別の空いた手で、帯をほどき肩から衣を落とす。
 蝶の様な姿も美しかったが何も纏わない、白磁の肌は闇夜でも美しい。
 着物は布団の脇に軽く投げておき、そっとの体を押し倒す。
 飲みこみきれなかった唾液が顎を伝い、ジョットはようやく唇から離れ、流れる銀糸をゆるりと舐めとる。
 唾液など、どうという事もないはずなのに酷く甘く感じる。
 体のあちこちに所有の証を刻みながら、ゆっくりと下肢に手を伸ばす。
 出来る事なら、繋がるにしても気持ち良くしてやりたいと思う。
 何時もは負担が大きいだろうが、文句ひとつ言わずに受け止めてくれる。
 だからこそ、なるべく優しく気持ち良くしてやりたい。
 の自身に触れると僅かに体が震え、そんな仕草に笑みを浮かべると今度は潤んだ瞳で軽く睨まれる。
 ぎゅっとジョットの背中に回された手に力が篭るのに、限界が近い事を知る。
 先ほどから刺激を耐え続けている自身からは、ぽたりと蜜が流れ始めている。
……」
 そっと呼びかけると、きゅっと閉じられていた瞼がゆるりと開かれる。
 漆黒の瞳は水の膜に覆われ、桜色の唇からは時折悩ましげな溜息が洩れる。
 声を出すことを嫌うの為に、絶頂を迎える時には何時もこうして己の口唇で唇を塞ぐのが習慣になっていた。
 も拒まず、素直にジョットの舌を受け入れながら、押し寄せる快感に息を漏らす。
「ふっんん……」
 手の中にある自身に強い刺激を与えると、細い体がしなり手の中に熱い物が吐き出される。
 くたりと力の抜けた体をいたわりながら、手の内に放たれた蜜を今度は菊座に塗りこんでゆく。
 手を伸ばした瞬間はやはり体が強張るが、直ぐにそのこわばりも解けて、ジョットの指をゆっくりと受け入れてくれる。
 狭いそこを解すように指を増やせば、堪え切れずに漏れた玲の嬌声が響く。
 快楽に慣れていないの体は些細なことでも敏感に反応してしまう為、余計に体に負担を掛けさせてしまう。
 気を使いながら指を進め、ふと自分ばかりが楽しんでいるのではないかと不安になる時がある。
 と、頭の上からくすくすと笑い声が響く。
 白い胸元に口付けを落としていた顔を上げると、柔らかな笑みを浮かべたと目が合う。
「そんなに大切にされるほど弱い体でもない」
 先ほどの余韻のせいか目は潤んではいるが、包み込むような優しい笑みにジョットは泣きたくなる。
 遠慮はするなと言外に言われて、ジョットはずるりと指引き抜いて、自身を宛がう。

 名を呼べば、軽く目が伏せられて、それを合図にゆっくりと推し進めてゆく。
 伸ばされた手に縋るように抱き締め、空いた片手で落ち着かせるようにゆるりと首筋を撫でる。
 首というのは急所である為、触られるのを嫌がる者も多いが、はジョットであれば柔らかな表情を見えることが多い。
 普段から人を寄せ付けないに唯一許された行為であり、最初は優越感をもったものだが次第にそんな事はどうでも良くなり、今ではの気を落ち着かせる為だけに良く手を伸ばす。
 強張っていた体も少しづつ力が抜け、体を預けてくれるのが愛おしい。
「体が辛かったら言ってくれ」
 言いながら緩やかに律動を加えれば、ひと際艶やかな声が響いた。


 荒い息を繰り返すの体を抱き寄せると、しがみつくように腕が回される。そんなことにも純粋に嬉しく、自然と顔が綻ぶのが自分でもわかり案の定じろりとに睨まれた。
 結局、気使って遠慮していた物の、普段禁欲的なの媚態に歯止めが利かなくなり、嬌声がすすり啼きに変わってしまうほど求めてしまった。
 結果として、ジョットは現在満ち足りた清々しい気分だが、の機嫌はあまりよろしくない。
「気を使う割には……」
 息の合間にぽつりと呟かれた声に、ジョットはの顔を覗き込む。
「お前は『こちら側』にはならないな」
 最初何の事かと思ったが、直ぐに思い当たる。
 普段女役を務めてくれるのはの方で、ジョットはその役に回らない事を言いたいのだろう。
 まぁ、ジョットとしてはと気持ちよく繋がれればどちらでも構わなかったりするのだが。
 何と返そうか困ったが、ここはこれ以上機嫌を損ねる前に、素直に自分の想いを言った方が良い。
「入れられるよりも入れる方が心地よい」
 自分の中ではストレートだが、的を射た答えになったと自信があったのが、聞いたはしばらく呆気に取られたような表情になり、結局何も言わずに深いため息を付いただけだった。

ー幕ー

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