あれだけ帰りたいと願ってきた現代に帰ってきてから、目まぐるしく日常は変化し始めた。怨霊と戦う事もなければ楽しく八葉の皆とどこかへ出かけたりする事もなくなり、平和な生活が返ってきたが少し寂しいような気持ちにもなる。 と一緒に帰って来た詩紋は前とは違い、いじめられる事もなく自分の意思をはっきりと告げられるように成長し、行く前のような消極的な性格がどこかへ行ってしまったように感じる。 そして一番に対して態度が変わったのは天真だろう。行く前は友人として仲良くやっていたが、帰ってきてから恋人として意識してくれているのか態度が優しくなった。 「何考えてたんだ?」 「あぁ、いや色々あったな〜と思ってさ」 そう言うと天真も思うところがあったのか、眩しそうに目を細めて澄み渡った青い空を見つめた。 「まぁ、あれだな。友人って言うよりはやっぱ仲間の方がしっくりくるな、あいつらは。会えたのは無駄じゃなかったって思うぜ」 「そうだね。俺も楽しかったし、色々な体験もしたから忘れられないよ」 「それにお前とも仲良くなれたし、その、なんだ恋人にもなれたし」 照れたように笑いながら、包み隠さず真っ直ぐな心を言ってくれるのが天真らしくてはちらりと天真に視線をずらした。 前を向いているとばかり思っていた天真がこちらを向いていて、少し恥ずかしいような気がしてはまた青い空に視線を戻した。 きっと世界は違ってもこの青い空を彼らも見ているような気がする。 「そうだ、天真、これ」 傍らに置いてあった鞄の中から小さな袋を取り出して天真に差し出すと、顔を赤く染まった頬を紛らわすように口を開いた。 「バレンタインだろ、その……」 「……ありがとう。すっげー嬉しい」 帰ってきてからバタバタしていたせいもあり、会う約束をした時に気付いて慌てて買いに走ったのがこれ。 一番天真に似合うと思った時計とチョコを入れておいたのだが、反応が怖くてちゃんと渡すのが出来ないと思っていた。 どうして恋人にとって年に一度の告白のチャンスを見逃していたのだろうか、もっとちゃんと準備して置けば良かった。 天真はありがたく差し出された袋を受け取って、その箱がチョコレートにしては少し重い事に気付いた。 「これ開けてもいいか?」 「どーぞ」 開けてみるとそこには小さな袋のチョコレートと、綺麗なパッケージの腕時計が収められていて天真は驚いてを見つめた。 バレンタインデーというのは少なからず意識はしていたが、本当にもらえるとは思っていなくてしかも天真好みのものだったから尚更驚いた。 「ありがとう。大事にするな」 はその言葉を聞いてほっと大きく息を吐き出し、全身の余計な力を抜いた。 「お前、そんなに緊張する事かよ?」 「む、じゃあ3月14日楽しみにしてるからね。3倍返し!」 大好きな人に大好きというのも勇気がいるが、それと同じくらいにチョコを渡すのにも勇気がいるのを天真はわかっていないらしい。 ましてや恋人になって初めてのバレンタインともなれば重要問題であり、緊張は仕方ないだろう。 「げ、三倍返し?」 「当たり前。常識じゃん?」 意趣返しのつもりでそう言えば唸る天真がいて、可哀想かなとも思ったが少しくらいの意地悪はいいだろう。 天真は眉間に皺を寄せて真面目な顔で悩み始めたが、小さく息をついて笑みを浮かべた。 「ちゃんと考えとくよ」 なんだかんだ言いつつ天真は約束を破ったりしないから、は気恥ずかしくもあるがその日が楽しみになった。 誰でも隔てなく明るい天真だから人気があるのは知っているが、そういえば誰かからもうバレンタインチョコを貰っているのだろうか。 ふと気になって聞こうと口を開いたが、天真が口を開く方が早かった。 「去年は結構たくさん貰ったな。まぁダチが多いからそれのせいだろうけど」 「へぇ」 「まぁ、今年は大丈夫だけどな」 やけに嬉しそうに言う天真が自信たっぷりに言う理由が良く分からなくて、は小首を傾げたが天真はの手をやさしく握った。 「本当に好きな奴の以外貰えないだろ」 恥ずかしかったのか天真は顔を背けてしまったが、手は握られたままなのが嬉しくてくすりと笑うと頭を軽く小突かれた。 「大好きだよ」 「恥ずかしい奴。……俺も好きだよ」 二人の恋はまだ始まったばかりだ ー幕ー |